仕掛けられた「落とし穴」
もう一度、はじめから見直してみましょう。
つまり、「問題文」から見直します。
「いつも正直者」は、いつも真実を語る。
「ごまかす正直者」は、いつも真実を語るが、自分が犯人の場合は「自分は無実だ」と嘘をつく。
「いつも嘘つき」は、いつも嘘をつく。
「正義の嘘つき」は、いつも嘘をつくが、自分が犯人の場合は「自分は犯人だ」と真実を語る。
この島で、プリンが勝手に食べられる事件が起きた。
目撃者によると犯人は1人。
プリンを食べたのは誰だろうか?
4タイプの説明に、他の解釈の余地はありません。
となると、気になるのはこの部分。
この島には4タイプの人間がいて、事件はその島で起こった……。
こ れ だ!
当然、目撃者もその島の人物。ということは……
目撃者が「嘘つき」の可能性がある。
つまり、「犯人は1人」という情報が真実とは限らない。
というより、「犯人が1人」という情報を前提とした論理が破綻している以上、その前提が間違っているとしか考えられない。
この事件の「目撃者」は嘘つきであり、犯人は1人ではなく、0人、2人、3人のいずれかということです。
そういうことだったのか……!
まんまと騙されました。
犯人の「人数」は?
前提が崩れたため、完全に振り出しに戻りましたが、気を取り直して考えていくしかありません。そこで、「犯人の数」を仮定して考えてみます。
まずは、「犯人なんていなかった」と仮定してみましょう。大前提からひっくり返りますが、こうなるとすべて疑ってかかった方がいいはず。
この場合、A,B,Cは無実です。
しかし全員が「私は無実」と真実を言いつつ、「◯◯は犯人」とも言っている以上、どの人物が正直者であれ嘘つきであれ、かならず1人以上は犯人がいることになります。
よって、犯人は0人ではありません。
平和な世界なんてないんですね。
もしも全員が犯人なら?
次は、「3人とも犯人だった」場合を考えてみます。
その場合、A,B,C全員が「私は無実」と発言しているので、3人の正体は「ごまかす正直者」か「いつも嘘つき」のどちらかに限定されます。
そしてAは「Bが犯人だ」と真実を述べているため、Aは「自分が犯人であること」だけ嘘をつく「ごまかす正直者」で確定します。
ということは「Bは正直者グループである」というAの発言は真実になるため、Bの正体も「ごまかす正直者」だとわかります。
つまりBの「Cは私と違うタイプ」という発言も真実であることになり、Cは「いつも嘘つき」になります。
ところが、嘘しか言わないはずのCが、「Aが犯人だ」と真実を述べてしまっています。
ここに、矛盾が起きています。
よって、犯人は3人ではありません。
犯人は1人でも、0人でも、3人でもありませんでした。
ようやく判明しました。
犯人は2人です。
これで、やっと本当の検証をはじめられます。
再・Aが「いつも正直者」の場合
まず、Aが「いつも正直者」だった場合です。
B「私は無実だ。Aが犯人だ。Cは私とは違うタイプだ」
C「私は無実だ。Aが犯人だ」
Aの発言から、「Aは無実」「Bが犯人」「Bは正直者グループ」ということが確定します。
しかしBは、無実であるAを指して「Aが犯人」と嘘をついています。
Aの発言からわかった「Bは正直者グループ」という事実と矛盾します。
したがって犯人が2人であろうと、この可能性はありえません。
再・Aが「ごまかす正直者」の場合
次に、Aが「ごまかす正直者」だった場合について。
B「私は無実だ。Aが犯人だ。Cは私とは違うタイプだ」
C「私は無実だ。Aが犯人だ」
1度目の検証のとき同様、Aが無実の場合は、Aが「いつも正直者」だった場合と同じ展開で矛盾が発生します。よって、Aは犯人だけれど、そのことについてのみ嘘をついている場合を考えていきます。
Aの発言から、「Aが犯人」「Bが犯人」「Bは正直者グループ」ということが確定します。
犯人は2人ですから、これは成立します。
そしてBは犯人でありながら「私は無実だ」と発言しているため、「いつも正直者」ではなく、「ごまかす正直者」だとわかります。
そんなBが「Cは私とは違うタイプ」と発言していることから、Cの正体は「いつも正直者」「いつも嘘つき」のどちらかに絞られます。
Cの発言は「私は無実」「Aが犯人」と、どちらも真実であるため、Cは「いつも正直者」です。
ようやく、矛盾のないパターンが見つかりました。
B:犯人・ごまかす正直者
C:無実・いつも正直者
他の可能性がなければ、これが正解になります。
再・Aが「いつも嘘つき」の場合
最後に、Aが「いつも嘘つき」の場合を検証します。
B「私は無実だ。Aが犯人だ。Cは私とは違うタイプだ」
C「私は無実だ。Aが犯人だ」
Aの発言が嘘なら、「Aは犯人」「Bは無実」「Bは嘘つきグループ」となります。
実際にBは「私は無実」だと正直に発言していますが、Aの発言どおりにBは「嘘つきグループ」だったとしたら、矛盾が起きます。
したがって、この可能性はありえません。
よってありえるのは、Aが「ごまかす正直者」のパターンのみ。
その発言から、プリンを食べた犯人はAとBだとわかります。
プリンを食べた犯人はAとB
「思考」のまとめ
いやー、めっちゃ面白い問題でしたね。批判思考の基本である「結果がおかしいなら前提を疑え」を実践できる、これ以上ない良問と言えるでしょう。自力で解けた人がいたとしたら、すさまじい達成感を得られたのではないでしょうか。
「ごまかす正直者」であるAとBが「自分は無実」と主張しつつ、互いに共犯者を裏切って告発し合う地獄絵図になっているのも示唆に富んでいますね。現実って非情ですよね!
・当然のように受け入れている前提自体が、真実とは限らない
・あらゆる情報を疑い、あらゆる可能性を考える必要がある
(本稿は、『頭のいい人だけが解ける論理的思考問題』から一部抜粋した内容です。書籍では、こういった問題を67問、紹介しています)