その後の記者会見でも、定年を45歳にすれば、「30代、20代がみんな勉強するようになり、自分の人生を自分で考えるようになる」と言い、45歳定年制の狙いは社員の意識改革にあると強調しています。

 この発言は、SNSなどで「人材の切り捨て」などと非難を浴びました。でも、私は新浪氏の発言に強い共感を覚えました。できるだけ早いうちに危機感を持ち、所属する会社を辞めても生きていけるキャリア形成が必要だと思うからです。

 興味深いのは、45歳定年制発言は新浪氏ひとりのものだけではなく、当時、企業の間で1つの流れになろうとしていたことです。

早期退職制度が
ジョブ型雇用への転換を進める

 新浪氏の発言が飛び出す1ヵ月前の2021年8月、自動車大手「ホンダ」の早期退職募集のニュースが話題になりました。電動化や自動運転へと技術が変化する中で、中高年層に偏った人員構成を見直すことが目的と言われたものです。

 ホンダのこの動きをはじめ、早期退職募集の動きがまるでブームのように取りざたされるようになりました。

 会社員にとって、一番怖いのは肩叩きですが、これとは異なり、辞めたい人が退職金を割り増ししてもらって外へ出られるんですから、得してよかったみたいに思われたものでした。

 ところが最近、企業側に退職金を割り増しする余裕がなくなったのか、あまり聞かれなくなりましたね。

 こうした割増金はある意味、退職へと動き出すインセンティブになるんじゃないでしょうか。

 会社がわざわざ背中をちょっと押してくれるのですから、独立したい、転職したい人にとって、事実上の投資をしてくれる機能を持つ。当時の早期退職をめぐるニュースを、私はプラスの動きだとみていました。

 こういう動きでもないと、メンバーシップ型雇用が一般的な日本では、働き手の流動性は生まれにくい。1つの会社を辞めてしまうと同業他社にもう1回入るのは非常に難しく、退職した人はまるで片道切符を受け取ったみたいなイメージが付きまといます。こうした現状を打破するのに、割増金のある早期退職制度は実にいいと評価したんです。