ではBYDの軽EVはどのようなスペックになるでしょうか。BYDはブレードバッテリーという縦型のバッテリーを床に高密度で敷き詰める独自の技術を持っています。そのためコンパクトカーのシーガルでも低価格モデルの走行距離は305km、高価格モデルは405kmとEVとしてはかなりの長距離走行スペックを誇っています。
このシーガルの床面積(=全長×全幅)と日本の軽自動車規格ぎりぎりに合わせた車の床面積を比較すると単純計算で78%になります。そこからBYDの軽の走行距離性能を推測してみます。保守的に新型軽のブレードバッテリーの量はシーガルの75%になるとして計算すると、BYD製の軽は低価格モデルで230km、高価格モデルで300kmは狙えそうです。言い換えるとサクラを上回るスペックが実現できそうです。
EVのコストの大半はバッテリーの量で決まります。そこからの類推で仮に新型軽のコストを保守的にシーガルの8割だと仮定してみます。中国でのシーガルの価格は低価格モデルが日本円にして約144万円、高価格モデルが約175万円です。さらにドルフィンのケースでは中国での価格と輸送費や関税を含めた日本での販売価格は約1.6倍の差があります。
それらの要素を総合して推定すると、BYDの新型軽の販売価格は低価格モデルが185万円、高価格モデルが225万円という数字が算出できます。
もう一度比較してみましょう。日産サクラが260万円で180kmであるのに対して、BYDは185万円で230kmの標準モデルと225万円で300kmの長距離モデルの2タイプをぶつけてくる可能性があるということです。これは計算する前から予想された結果です。BYDの軽は価格およびコストパフォーマンスの観点では日本車を凌駕する存在です。
とはいえコスパがいいからと言って日本企業がうろたえる必要はまだありません。BYDには日本車と比較して劣位な点が3つあります。日本での信頼性や品質のイメージと、日本市場への知識、そして日本での販売チャネルです。この3つの障壁はコンサルタントの視点で見るとBYDにとってはかなり高く、その視点でみれば今回の黒船は日本車メーカーにとってそれほどの脅威にならないかもしれません。