ホワイト化しても
離職率は改善されず
しかし、離職率は改善されていません。厚生労働省が発表した過去10年間のデータを見ると、特に大企業における早期離職率は増加傾向にあるのです。これは驚くべき現象と言えるでしょう。仕事の負荷は昔より明らかに下がっているのに、離職状況は改善されていない、むしろ高まっているのです。
この現象は一見すると矛盾しているように思えます。従来の常識では、過酷な労働環境が離職の主な原因と考えられてきました。実際、かつては「忙しすぎる」「残業で全く家に帰れない」といった労働負荷の高さが退職理由の上位を占めていました。
ところが近年では、「この会社でいいのかな」「このままでいいのだろうか」というキャリアに対する漠然とした不安や焦りが、離職の大きな要因となっているのです。
企業側も対応に苦慮しています。残業時間を減らせと言いながら、高い負荷をかけたらパワハラになるという恐れから、腫れ物を触るようにマネジメントをしなければならない状況です。その結果、新人社員に対して「芯を食った指導」ができない、言うべきことをはっきり言えないという事態が生じています。
残業時間は確かに減ったものの、若手社員の成長に対する不安は晴れず、それが「びっくり退職」につながっています。上司や先輩からすれば「こんなにホワイトな会社なのに辞めるの?」と驚きの声が上がるわけです。
このように、労働環境の改善だけでは若手の定着には繋がらないという、新たな課題が浮き彫りになっています。
私がこの現象の根本原因と考えているのは、若者の仕事に対する価値観の変化です。というのも、勤務先の大学で毎年約200人の学生にキャリアや仕事に関するアンケートを取った結果、Z世代と呼ばれる若者たちの新しい価値観が見えてきました。
彼らは「将来が見通しづらい今の社会では、もはや一度入ったら絶対に安泰な会社なんてない」と考えています。代わりに「自分の成長」こそが真の安定に繋がると信じているのです。
これは、専門的には、「エンプロイアビリティ(雇用されうる能力)を高めること」が彼らの心の安定に繋がっていると説明することができます。