温州人といえば、中国では「不動産転がし」(正確にはマンション転がし)の代名詞だ。彼ら投機集団が地方都市に出現すると、その街は決まって不動産価格が値上がりするという神話も生まれたほどで、上海のマンション価格を異常に吊り上げた元凶として、方々から恨みを買った悪名高い存在でもある。
結束力の強い温州人は、独自の調達法で資金を集め、中国各地でフロア買い、一棟買い、果ては「小区買い」(日本でいうならばひとつの団地群を買う、というニュアンス)まで現れた。
温州人たちは、上海においても「買い占めては転売」を繰り返し、しこたま儲けた。2000年代、個人も企業も不動産投資に狂奔したが、温州人が火を点けたお陰で裕福になった人々も数多い。世界経済において中国が力を強めたプロセスと、温州人たちの「不動産転がし」は、決して無縁ではない。
改革開放経済の黎明期をリード
温州は中国の発展モデルだった
浙江省温州市は、実はかなり不便なところにある。そこそこ知名度がある都市にもかかわらず、上海からは列車で6時間もかかる。そんな辺鄙な温州では、改革開放が始まったばかりの1980年代にはすでに私有企業が誕生し、中国の改革開放政策のモデルともなった。
90年代初期には、黎明期の中国の不動産市場において早くも投資活動に乗り出すなど、温州経済は「一歩先を行く存在」として、中国経済を牽引してきた。また、温州は軽工業が盛んな街でもあり、日常生活に使われるような衣類や靴、メガネなどの生産を得意とし、対外輸出でいち早く巨万の富を得ることに成功した。
10年前の2003年、筆者は温州出身の若手メガネ工場経営者と面会したことがあるが、「食事をご馳走しよう」と連れて行かれたレストランで彼は、豪快な飲み食いを繰り広げた。最後の精算時に分厚い肩掛けバッグから、100元札を鷲づかみにして取り出す姿は今でも忘れられない。桁外れに儲けた彼らには、もはやポケットに入るような小さい財布など必要ないのである。筆者の中で「温州商人=超金持ち」は、これで証明されたも同然だった。
さて、そんな彼らは今も笑いが止まらないのだろうか。