関税がマクロ経済に及ぼす影響

 関税ショックがマクロ経済に及ぼす影響を整理するところから始めよう。高関税を課す国と課される国では影響が大きく異なる(図1を参照)。

 まず関税を課す国(例えば米国)では、輸入品の国内価格が高くなるので、消費者や企業は国内品や、関税のかからない第三国からの輸入品への代替を迫られることになる。例えば、ある企業が中間投入として使用していた自動車部品に高関税が課され、やむなく国内品への代替を余儀なくされるといったケースが想定される。

 当然ながら、こうした国内品は、生産効率やコスト競争力において輸入品に劣っている。だからこそ、これまで輸入品に市場を奪われてきたのである。

 このように、生産効率で劣後する部品への切り替えがさまざまな品目について起きると、経済の資源配分効率が悪化し、その結果、マクロの生産性が悪化する。それに伴い限界費用が上昇するので、総供給曲線は上にシフトする(図1の左図を参照)。新しい均衡では、国内価格は上がり、国内生産(実質GDP)は低下する。まさにこれが、米国で今起きている、あるいは今後起きると予想されていることだ。

 一方、高関税を課される国の事情は大きく異なる。日本は報復関税を実施しない方針とされているので、課される国の典型例だ。

 課される国では、国内生産の資源配分効率に直接的な影響はないので総供給曲線は不変だ。一方、関税によって輸出が減るので、総需要曲線が左にシフトする(図1の右図を参照)。その結果、新たな均衡においては、国内物価と国内生産(実質GDP)のいずれも低下することになる。