財政政策と金融政策のポリシーミックス

 以上を整理すると、日本でこれから起きることは総需要曲線の下方シフトであり、しかも、その下方シフトが続くのは約2年である。つまり、典型的な負の需要ショック、しかも持続期間がさほどではない需要ショックである。

 であれば、処方箋は明らかである。総需要の刺激だ。その手段としては、政府による歳出拡大や減税といった財政政策、そして日銀による金融緩和が有力な選択肢となる。

 ここからは、財政政策と金融政策の両方の対応を検討するが、その前に両者をどのように組み合わせるか、つまりポリシーミックスについて整理しておきたい。

 財政にせよ金融にせよ、総需要刺激がGDPと物価に及ぼす影響は同じであり、いずれも上振れ要因だ。しかし、為替レートへの影響は対照的である。金融緩和による総需要刺激は金利を下げるので、自国通貨を減価(円安)させる。一方、財政出動による総需要刺激は金利を上げるので、自国通貨を増価(円高)させる。

 総需要曲線が左にシフトした理由は高関税だ。円安は、ショックの源泉である高関税の効果を一部消し、それによって総需要曲線のシフトそのものを小幅にする。ショックの火種を消火するという意味で円安は望ましい。これに対して円高は高関税の効果を増幅させ、総需要曲線のシフトをさらに大きくする。

 このことを踏まえると、総需要刺激策を財政と金融の両面から講じるとしても、為替への影響を考慮すれば、相対的に金融緩和により重点を置くべきということになる。

 ただし、トランプ大統領は自国通貨安(ドル安)を望んでいると伝えられており、日本が円安に向かうとすれば抵抗するかもしれない。その点は対米交渉では重要かもしれないが、少なくとも日本側のロジックに基づけば、高関税が課されている期間は金融緩和に重点を置き、円安を志向すべきである。