対人不安克服のための指導と自信の育成

 コミュニケーションが苦手だと自認している人は、自分はハンディを抱えているといった意識を強くもっているものである。ゆえに、対人不安気味の人に対しては、人に気をつかいすぎて疲れてしまうのは日本人にありがちな心理傾向だし、多くの人がそうなのだということを教えてあげることが大切である。

 また、対人不安は、対人的場面に関連した不安だが、それには人に見られる自分の姿に対する自信ばかりでなく、自分に対する自信全般が関係している。その意味では、仕事内容に関係する知識・情報に通じていることには自信をもつように言い聞かせることも大切である。

 仕事ができるようになるには、認知能力、いわゆる知的能力だけでなく、非認知能力も重要となることに最近目が向けられるようになってきた。非認知能力の中でも、まずは自分を動機づける力、つまりやる気を燃やす力が大切で、粘る力、我慢する力、感情をコントロールする力なども、勉強でもスポーツでも仕事でも、何かすべきことをやり抜くためには必要とみなされるようになっている。

「コミュニケーション力=笑いを取る、盛り上げる能力」ではない

榎本博明『「指示通り」ができない人たち』(日経プレミアシリーズ)榎本博明『「指示通り」ができない人たち』(日経プレミアシリーズ)

 しかし、コミュニケーション力も非認知能力の重要な要素なのだということはあまり意識されていない。だが、今回の事例でもわかるように、仕事相手との間に信頼関係を築くには、コミュニケーション力を磨く必要がある。

 その場合のコミュニケーション力というのは、笑いを取る能力のようなものではなく、仕事内容に関係する知識・情報を適切に説明できる能力である。これは、対人不安の強い人間でも十分に対応可能なものである。

 対人不安気味の人は、必要な説明はできるのだが、その前後の雑談が苦手なために、人に会うのが気が重いという。しかし、仕事の場では必要な説明が重要なのであって、雑談で盛り上がれなくても、必要な説明がきちんとできればそれで十分なのである。

 人と接するのが苦手だという人の中には、コミュニケーション力を笑いを取る力や雑談で場を和ませる力だと思い込んでいる人が多い。でも、仕事の場では、仕事にかかわる内容をきちんと説明できるという意味でのコミュニケーション力こそが求められる。

 このようなことを教えてあげることで、気持ちが楽になり、仕事相手に会う際の対人不安も和らぐはずである。