手段が豊富な日本から、
世界へ向けてイノベーションを起こす
紺野 本村さんが今おっしゃった「おもしろくないと仕事はうまくいかない」という点はとても重要で、なぜ今、目的工学が必要かの意味もそこにあります。合理性で凝り固まった組織というのは主体性がどんどん失われていって、「やらされ感」が強くなってしまう。本来あるべき主体性を取り戻し、仕事をおもしろくするにはどうしたらいいか、というのも目的工学を考えた動機の1つです。
そのためには、企業が抱えている知識や技術という財産を、ある目的のために活かすことで、個々人が最大限の力を発揮できるようにする。個々の目的を満たすということは、それぞれの食い扶持を満たしていくことでもある訳ですから、経済的にももちろん、十分なリターンがなくてはなりません。そうしないと、持続可能ではなくなってしまいますから。
本村 そういう意味で、日本はとても可能性のある国だと思っています。僕たちが、年間のほとんどを海外で活動しながら、日本に未だに拠点をおいている理由は、純粋にグランマの活動を加速させる豊富なリソースがあるからなんです。
いまだ工業が発達していないアジアの国々では、日本の技術力は喉から手が出るほど欲しいリソースです。一方で、日本企業のハイ・テクノロジーを日本の文脈のまま現地へ持って行っても、機能しない現実もあります。日本には幸いにして選べるだけの技術が眠っているのだから、その良さを活かしながら、それを世界に持ち出してイノベーションを起こしていきたい。そう思ったのが、僕らが活動を始めた最初の動機です。
紺野 おっしゃるように、日本には今、「手段」である技術は豊富にある。欠けているのは、その手段を活かすための「目的」だけです。
本村 目的と似たような言葉で「ビジョン」「ミッション」という言葉もありますよね。じつはあれ、ビジョンをミッションと言っている人もいたりして、わかりにくいと思っていたんです。でも、目的を大中小に分けて考えながらプロジェクトを回していけばいいという紺野さんの説明はとてもわかりやすくて、実践家は是非、読むべきだと思いました。
紺野 個々人の持っている目的は本来バラバラであるはずだし、それを無理に統一しようとすると衝突が起きる。一方で、大目的は高尚だけれど抽象的すぎる。そこで、間に中目的を置いて目的をドライブしていくと、プロジェクト全体がうまく回るようになっていく。グランマのような目的群を調整する組織がそこかしこに生まれてくれば、日本の未来も明るいんじゃないかな。
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アインシュタインも語った――「手段はすべてそろっているが、目的は混乱している、というのが現代の特徴のようだ」
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多摩大学大学院教授、ならびにKIRO(知識イノベーション研究所)代表。京都工芸繊維大学新世代オフィス研究センター(NEO)特任教授、東京大学i.schoolエグゼクティブ・フェロー。その他大手設計事務所のアドバイザーなどをつとめる。早稲田大学理工学部建築学科卒業。博士(経営情報学)。組織や社会の知識生態学(ナレッジエコロジー)をテーマに、リーダーシップ教育、組織変革、研究所などのワークプレイス・デザイン、都市開発プロジェクトなどの実務にかかわる。
著書に『ビジネスのためのデザイン思考』(東洋経済新報社)、『知識デザイン企業』(日本経済新聞出版社)など、また野中郁次郎氏(一橋大学名誉教授)との共著に『知力経営』(日本経済新聞社、フィナンシャルタイムズ+ブーズアレンハミルトン グローバルビジネスブック、ベストビジネスブック大賞)、『知識創造の方法論』『知識創造経営のプリンシプル』(東洋経済新報社)、『知識経営のすすめ』(ちくま新書)、『美徳の経営』(NTT出版)がある。
目的工学研究所(Purpose Engineering Laboratory)
経営やビジネスにおける「目的」の再発見、「目的に基づく経営」(management on purpose)、「目的(群)の経営」(management of purposes)について、オープンに考えるバーチャルな非営利研究機関。
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