「貧困とは想像力が枯渇した状態である」と定義し、ビジネスを通じてアジアの貧困問題を解決しようと活動しているグランマの創業者・本村拓人氏と、『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのかーードラッカー、松下幸之助、稲盛和夫からサンデル、ユヌスまでが説く成功法則』の著者、目的工学研究所所長の紺野登氏との対談後編をお送りする。後編では、21世紀版ものづくりに欠かせない「知の生態系」を回して行くための考え方とコツについて語ってもらった。(構成/曲沼美恵)

「想像力を持って生きること」は、
本来、世界中の誰もが持つべき武器

紺野 今回の本の中では、最近注目されているフューチャーセンターのあり方にも触れています。日本では「複雑な問題を解決するためにフューチャーセンターを使う」と考える人が多いようですが、それは違います。

 フューチャーセンターは、新しい考え方や関係性を作り出すために生み出されました。1つひとつの課題を分析し、それを解決していくのではなく、現場にある力強いニーズを発見して、それに刺激を受けた人々が新たな関係性を構築し、そこにみんなが巻き込まれていく、というのが正しいあり方です。

本村拓人(もとむら・たくと) 
グランマ代表取締役社長、マーチャントアドベンチャー。1984年東京生まれ。2009年株式会社グランマ創業。2010年「世界を変えるデザイン展」開催。2012年よりクアラルンプールで開催されているワールド イノベーション フォーラムのプログラム開発にも関わる。創業よりアジア地域に特化した日本企業の進出およびビジネス開発支援を実施。これまでに、日系10社以上のメーカーと共に南アジア地域における無電下村におけるソーラーランタンの設計からバリューチェーン(製造から販売までの全体設計)、医療施設が備わっていない地域での遠隔医療システムの設計、塩害地域での安全で清潔な水の提供をシステム開発などを手がけてきた。2011年からは途上国から提案されている固有技術(草の根から生まれてきている低技術、低価格、低環境負荷な製品)の普及(販売、マーケティグ活動)にも力を入れている

 ここで重要なのは、関係性は無限であるという点です。当事者が最初に持った目的は非常に個人的なものでも、「だったら、ボクも、ワタシも」という風にその目的に乗っかる人が出てくる。現代はインターネットにより情報が瞬時に伝わるため、そうした乗っかり現象が世界で同時多発的にも起こり得ます。

 社会起業家(ソーシャル・アントレプレナー)はよくこうした現象を称して「スケール・アウト」という言葉を使いますが、小目的がだんだん社会性を帯びて大目的へとスパイラルアップしていく過程もそれに近いと思います。

本村 個人的なパーパスが次第に周りの賛同を得ながらスケール・アウトしていく感じというのは、すごくよくわかります。僕らにとって、その求心力にもなるのが「more imaginative life」という言葉です。これは、すべての人々が自らの意志で未来を切り開ける日常を意味していますが、それを説明すると、国境を越えていろんな人が理解を示してくれます。「貧困をなくしましょう」と声高に叫ぶよりも、「想像力というのは、世界中みんなが持つべき武器ですよね。だから、万人が想像力を持って生きられるような世界を作っていきましょう」と説明された方が夢を持てる、と言われます。

紺野 「貧困は想像力が枯渇した状態である」という定義は、素晴らしいですよね。経済的なことは所与の条件に過ぎなくて、本質的に解決すべきなのは想像力の欠如だと主張している訳ですから。

本村 たとえば、グランマがかかわっている活動のなかに、フィリピンの農村に蚊帳を普及させるためのプロジェクトがあります。「初めての蚊帳はみんな無償で配布するから、今後も継続してなるべく購入してください」とやったら、これまでの支援と何も変わりがなくなってしまう。

 そうではなくて、僕らがかかわる意味というのは、「蚊帳を売る、あるいは使うということに対する目的を現地の人たちと一緒になって作れるか」というところにあると思っています。

 その際、当然の事ながら現地の人たちにヒアリング調査もしますが、それで出てくる答えは通りいっぺんのものでしかありません。本当に重要なことは、現地の人たちの生活全体を観察しないと見えてきません。

紺野 つまり、蚊帳のことだけを考えていても蚊帳は売れない、ということですね。

本村 そうなんです。詳細にフィールドワークした結果、例えば住居を補強するサービスと一緒に売った方がいいんじゃないか、ということもある。その場合、じゃあ、その材料となるコンクリートも必要だよね、となり、新たなパートナーシップも広がっていきます。