ソニーのプレステ5の転売対策が秀逸だった
それでは、もっと簡易的で現実的な転売対策はあるのだろうか。
私が印象的だったのが、ソニーのプレイステーション5の転売対策だ。家電量販店の一部では、プレイステーションを販売する際に、購入者に対して外箱に自分の名前をサインをするよう求めたのだ。新品のプレミアム感を喪失させることで転売しにくくするのが狙いだろう。さらに、プレステ4の買い取りを前提に、プレステ5を販売する工夫もあった。
似た方法で、箱にバツ印をつけて販売するものがある。また、会員カードの履歴を確認する手もある。これは同一商品の購入頻度が高い場合に、購入を制限するアプローチだ。
他にも、トレーディングカードのパッケージをレジで開封することを条件にするケースもある。プラモデルでは、店舗に商品を陳列する時間を、開店時などに限定せずランダム化することで組織的な購入を防ぐ。さらに購入時にも、箱を開封し、一部のパーツを切り離すという。
一方で、これらの対策は顧客体験を損なう恐れがある。「え、なんで箱を汚さないといけないの?転売なんてしないのに」「パーツを切り離すのもやめてよ!」と憤慨する購入者は一定数いるだろう。企業は転売ヤーは防ぎたいが、一般の愛好家から嫌われてはいけないので、微妙なさじ加減が大事だ。
また、値上げする手法も突き詰めると、おおげさにいえば「社会的公平性の問題」と衝突する。企業の利益だけを追求すると、市場が求める以上は高値で販売したほうがいい。転売ヤーが手にする儲けは自社に還流され、株主価値は最大化する。
しかし、ファンにとって感情的な側面が強い商品を扱っている場合、中長期的には嫌悪感や拒絶感をもたらす可能性が高い。顧客満足度の低下、顧客ロイヤルティの喪失につながる。企業イメージが悪化し、ユーザーの信頼を損ねて収益が低下すれば、株主価値もだだ下がりだ。
だから顧客体験を損なわないレベルで、かつ、価格設定も本来のターゲット層から忌避感を抱かれないよう細心の注意が必要となる。ヒット商品を売るのも大変な時代だ。
もっとも、転売ヤーが全て儲かるかというと、そうでもない。時間と手間をかけたのに爆死=大損するケースもしばしば報じられる。色んな意味でリスクを伴う行為であるのは間違いない。
転売を防ぐ試行錯誤の裏で、また新たな限定品をめぐる熱狂と、それを利に変えようとする者たちの攻防が繰り返されていくのだろう。転売問題は企業にとって「完璧な対策」を求めるのではなく、「受容可能なレベルまでの抑制」を目指すのが現実的といえる。
消費者も、些細なことで企業に怒らないようにしよう。日本企業は頑張っている。転売したいくらい魅力的な商品を出しているということじゃないか。転売対策ばかりに注力して、肝心な商品力が低下してしまったら、それこそ誰もハッピーではなくなってしまう。