
米国の関税率16~17%に!?
残るスタグフレーションの可能性
トランプ関税を巡り、米国際貿易裁判所が5月28日、「相互関税」と違法薬物対策などを理由にカナダ・メキシコ・中国に課した追加関税を違憲として差し止めを命じたかと思えば、翌日には二審にあたる米連邦巡回区控訴裁判所がその判決の一時停止を命じるなど、トランプ政権の関税政策は混迷の度を深めている。
米エール大学が5月12日の米中の関税引き下げ合意の共同声明(相互に課した追加関税を115%引き下げ合意)までに表明されたトランプ関税を集計したところ(図表1)、米国の平均実効関税率は輸入構造が変化しないケースで17.83%(図中①)、関税引き上げに応じて輸入構造が変化するケースで16.38%(図中②)となる見込みだ。
ニクソン元大統領が1971 年に発動した10%の追加関税を巡る訴訟で大統領側が勝利していることを踏まえると、トランプ関税のうち少なくとも10%の「基本税率」は認められる可能性が高く、米国の平均実効関税率は図表1で米エール大学が算出した16~17%にはならないまでも、10%台前半にはなる公算が大きいだろう。
そうなれば、やはり米国がスタグフレーション(景気悪化とインフレの同時発生)に陥る可能性は排除できない。
米エール大学の試算によれば、図表1の関税引き上げによって消費者物価が短期的に1.7%ポイント押し上げられ、2025年第4四半期の実質GDPは0.7%ポイント減少し、25年末の失業率は0.35%ポイント上昇する。明らかなスタグフレーションの構図だ。
だが、日米の経済指標からトランプ関税の影響度を読み解くと、直近5月15日公表の米国の4月生産者物価指数(PPI)は、前月比マイナス0.5%の急落となった。日本銀行が作成する輸出物価指数の中の「北米向け乗用車」も、4月の前年比は契約通貨ベース、円ベースともに急落している。
こうした指標を見る限り、現状は貿易業者やメーカーが自らのマージンを圧縮することで、関税コスト分の価格転嫁をおさえている状況だ。だが、企業収益の悪化から7~9月期には成長率低下が顕在化する見通しだ。
米国経済がスタグフレーションに陥るかは、なお微妙な情勢だ。