一方で診療所などの中小事業者においては「経営者の死亡や高齢化で廃業する取引先が年々目立ってきており、後継者がいない先は取引額を縮小するケースもある」(同)と話す。
病院については、ここにきて施設の法定耐用年数の問題がクローズアップされている。法律で病院建物の耐用年数は39年とされているが、この期限を迎える施設が相次いでいるものの、建設費高騰や資金難で新施設の建設を断念。事業存続危機に陥るのではないかという問題だ。
実際、病院を経営する全国5132事業者(法人のみ)の設立時期の分布を帝国データバンクが調べたところ、今から39年前にあたる1986年以前に設立されたのは2738法人で全体の53.4%を占めたほか、1987年から96年の10年間に設立されたのは1305法人で全体の25.4%を占めた。つまり、すでに病院の建て替え問題に直面している事業者が多数存在するだけでなく、今後10年間にわたってその数は増え続ける可能性もあるのだ。
このような状況下で医療機関のM&A動向はどうなっているのだろうか。M&Aキャピタルパートナーズ企業情報部の松井聡部長に話を聞いた。
――医療機関の倒産や休廃業・解散が過去最多ペースで増えています。M&Aの現状は?
病院、診療所、歯科医院のすべてで譲渡のニーズが増加しています。買い手のニーズも一定数ありますが、赤字法人の買い手はマッチングが難しく、収益力のある法人の買収ニーズが旺盛となっています。
――業態別の特徴はみられますか?
特に病院と歯科医院の譲渡ニーズが多いです。病院では人手不足や施設の老朽化・建築費高騰、DXの推進などに課題を抱えている法人の譲渡ニーズが増えていますね。歯科医院は保険診療型で患者数が安定している法人や訪問歯科に強みを持つ法人は買い手が見つけやすくなっています。
――同族経営が多い業界です。
かつては親族間での承継が一般的でしたが、現在は子息・子女が医師になったとしても、(異なる科目の医師になるなどの理由で)承継しないケースが増えてきています。人手不足や資金難など、医療機関の経営課題が増えているからではないでしょうか。
また、今後の見通しについて松井部長は、買い手が付く・付かないの2極化が進むなかで法人数が集約されていくと予測する。そうした中で、借り入れ過多で買い手が付かない法人は廃業できず、いずれ倒産を余儀なくされる可能性が高いと言えよう。