デンマークの食問題に取り組むチェンジメーカー
豊かな食生活のために工夫する人々がいる一方で、料理人の視点からデンマークの食文化を支えている人々がいます。まずは、イギリスの食雑誌「Restaurant Magazine」が発表する「世界のベストレストラン50」の1位に3年連続で選ばれたデンマークのレストラン、ノマ(Noma)です。
ノマのシェフは、食材から調味料まで徹底して北欧産にこだわります。森では、キノコやハーブ、木の実を、海岸では250種類もの海藻から食材を探すそうです。一枚のお皿の上に表現された彼らの作品は、“自然が生きている感覚”を思い出すような不思議な印象を与えます。
ノマのヘッドシェフである、レネ・レツェピさんのインタビュー内容や日記を読み、そして彼らの作った料理の写真がのせられた本、『NOMA』を眺めながら、ここまで自然の美しさと儚さを一枚のお皿の上に表現できるのかと驚きました。
ノマは世界に、そしてデンマークの人々に対して北欧の食材で工夫をすれば美味しいものができることを証明しました。彼らへのインタビューは残念ながら実現しませんでしたが、ノマの共同創始者であるクラウス・マイヤーさんの家の近所に住んでいたという、フランス人シェフのフランシスさんに会うことができました。
フランシスさんは、シャンゼリゼ通りにあるMaison du Danemarkでシェフをつとめた後、デンマーク人の女性に出会い結婚してデンマークに移住されました。現在はデンマークとイギリスでステーキハウス、MASHを、コペンハーゲンでフランス料理のLe Sommelier、日本とフランスのフュージョン料理をもてなすUMAMIを経営するオーナーです。
またクラウス・マイヤーさんと共に、デンマークの食品問題を解決するために様々なレストランから意欲的なシェフを集めて定期的にミーティングを開催されています。そこで生産者とのコラボレーションによるスーパーの食品質向上の商品コンセプトの開発やデンマークの若手シェフ向けの海外研修のサポートまで、様々な目的に基づいたプロジェクトに取り組まれています。
時にはデンマークの首相とも食問題について議論しているというフランシスさんに、今後のデンマーク、そして世界の食の未来について聞いてみると、「ノマが成し遂げたことはデンマークの歴史の一部となり、未来の文化となる」と彼は言います。
今後は人口増加により、空間、水質汚染、食料不足などの問題がさらに加速することが考えられます。デンマークの限られたリソースの中で、自然環境から食材、料理のインスピレーションを得るノマのシェフたちの哲学や独創性はどうやらそんな未来の問題を解決するキーとなるのでしょう。
デンマークの食文化はノマをきっかけに新しい一面を持って再形成を遂げつつあります。チェンジメーカーのシェフたちは、自分一人が有名になること以上に集合知で食問題を解決することに重点を置いています。
一般の人々は、一緒に食べる時間を他人と共有することで豊かな人生を築いています。それぞれの立場の人々が持つ共生の精神が、この国の食文化をさらに発展させ、世界にあらたな気づきを与えてくれるに違いありません。
※第6回に続く(6/28掲載予定です)
大本綾(おおもと・あや)
1985年生まれ。立命館大学産業社会学部を卒業後、WPPグループの広告会社であるグレイワールドワイドに入社。大手消費材メーカーのブランド戦略、コミュニケーション開発に携わる。プライベートでは、TEDxTokyo yz、TEDxTokyoのイベント企画、運営に携わる。2012年4月にビル&メリンダ・ゲイツ財団とのパートナーシップによりベルリンで開催されたTEDxChangeのサテライトイベント、TEDxTokyoChangeではプロジェクトリーダーを務めた。デンマークのビジネスデザインスクール、The KaosPilotsに初の日本人留学生として受け入れられ、2012年8月から留学中。
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