2枚の写真を前に、私はしばらく言葉を失った。予想していたとは言え、すでにここまで事態が進行しているという現実を見せつけられると、やはり一種の驚きを覚えてしまう。

急増する「三非」

 そのうちの1枚は、広東省東莞の刑務所内部の写真だ。警察の監視のもとで整列進行をしている囚人たちの様子が写っている。写真の内容自体に珍しいものは何一つない。しかし、写っている人物たちをよくよく見つめると、驚かずにはいられなかった。その囚人たちはなんと全員がアフリカ系なのだ!中国の刑務所に、アフリカ系の犯人がいっぱい、ということを想像するだけで、びっくりしてしまう。

 もう1枚の写真は、厳密に言うと、2枚一組となっているものだ。数十名の若い女性が列に並んで警察の前で何かの手続きをしているところが撮影されたものである。中国からベトナムに強制送還された「三非」と呼ばれるベトナム人、と写真のキャプションがそう説明している。

「三非」とは、非合法入国、非合法滞在、非合法就労を意味する「三非人員」の略語だ。つまり不法入国・滞在・就労の外国人のことを言う。約3年前の2010年8月19日に、本コラムでは、「『蛇頭』の絶版に見る中国労働力市場の変化~内陸部にまで広がる『三非』問題」と題するものを書いた。

 その中で、1994年に私が密航者や蛇頭に焦点を当て出版した『蛇頭』がロングセラーとなり、私の多くの著書のなかでも「孝行息子」の一冊となっていること、蛇頭という中国から移植してきた言葉も次第にスネークヘッドからジャトウと読むように変わり、知らず知らずの間に、新しい日本語として日本社会に定着していった、といったことを振り返った。

 しかし、世の中に終わらない宴はない。これほど売れていた『蛇頭』も次第に売れなくなり、やがて絶版となった。代わりに今度は外国の蛇頭が、外国人の密航者を中国に連れてくるような現象が中国各地で広がっている。これまでは外国で中国人密航者が強制送還されていたが、今やその逆バージョンが中国で起きている。2枚目の写真はまさにそのことを物語っている。