そんな時、ある女性モデルが「卵子凍結の道のり」と題して公開している約10分間のYouTube動画を見つけた。採卵周期に入る時の診察から、採卵手術が終わった後まで、クリニック内部や医師の映像もまじえながら、詳細に自らの体験を紹介している。

 採卵手術が終わった後、手術着に素顔の状態で、麻酔が切れて目を覚まし、痛みのあまり呻き声を上げる姿までも晒しながら、必死で自分の体験を伝えている。「これを公開する勇気は、すごいな」と思った。動画の概要欄には、こんなメッセージが綴られていた。

「卵子凍結という言葉だけが浸透して、間違った想像で補われないように、とてもプライベートなことですが公開します」「生きるか死ぬかではないけれど、来月ではなく『今』じゃなきゃいけない事、わかってもらえるだろうか、伝わるだろうかと悩みました」

卵子凍結について
堂々と語れる社会になってほしい

 この人は、体を張って、自らの体験を伝えている。卵子凍結に臨む自分の姿を、映像で公開しようと思える勇気は、一体どこから来るのだろう。この人なら、表向きのイメージを考えて言葉を選ぶのではなく、卵子凍結をした体験を、自分の言葉で率直に話してくれるのではないかと感じた。果たして、その直感は正しかった。

 モデル、タレントとして活動する前田智子さん(38)。高校卒業後、ニューヨークの大学に進学し、卒業後はダンサーや振付師として活躍。表現の世界で活動を続けてきた。プライベートでは、3年前に、事実婚関係にあった相手とパートナー関係を解消。その1年後、36歳で卵子凍結をした。現在は、東京と福岡の2拠点で生活を送っている。

 表舞台での仕事は、時にイメージ商売とも呼ばれるほど、表向きの“見え方”を大事にする傾向が強い。にもかかわらず、前田さんはなぜ、自分の体験と心情を語ろうとしてくれるのだろうか。そう聞くと、「こうしたテーマを、もっとストレートに堂々と話せる社会になってほしいから」ときっぱり答えた。