「最初にへえ~と声が出て、次に衝撃。なぜだか目の前がパーッと明るくなった気がして、涙が出たんです」

「目の前が明るくなった」のは、受精卵凍結についての説明だ。受精卵凍結は、不妊治療として行う体外受精の過程の一部として行われるほか、「今は望まないが、将来的に子どもを望む」法律婚あるいは事実婚カップルが、加齢などの生殖能力の衰えに備え、受精卵を凍結する目的もある。

受精卵凍結の選択に
パートナーも賛成

 当時、パートナーは福岡を拠点にしており、前田さんは仕事のある東京を拠点とした生活。2拠点を行き来するせわしない生活を送っていた。お互いに、仕事もまだまだこれからで、「頑張らないといけない時期」。そんな中、子どもを持つのか持たないのか決めろと言われても無理だった。だが、受精卵凍結という手段によって、産むか産まないかの判断を先延ばしにできる選択がある。それを知って、目の前が明るくなったという。

「説明会で話を聞いてみて、自分が仕事と出産との選択に苛まれていたことに初めて気が付きました。私の仕事は、限られた椅子の奪い合いで、産休育休を挟んだとしたら、元いた場所にはまず戻れない。当時は、まだ自分のやりたいことがちゃんとできてないから、子どもについても考えられないところがあったと思う。そんな風に、今は産むかどうか決められない私たちでも、受精卵凍結ならできるって思えたし、この選択肢を選ばない理由がないと思った。受精卵を凍結することによって、選択を先延ばしにできると思ったら、未来がすごく楽しく思えたんです」

 2人で説明を聞いた後、彼に「受精卵凍結がしたい」と話すと、彼も「やってみようか」と頷いた。それは、2人で子どもを持つことに向けて取り組む、とてもポジティブな体験だった。

 採卵までの手順は、卵子凍結や体外受精と同じで、排卵誘発剤を注射しながら卵胞を育てていく。迎えた採卵手術では、1回で22個の卵子が取れ、うち受精卵になった12個を凍結。最初は「凍結するのは10個」と心づもりしていたのだが、いざ健康な受精卵が12個あると言われると、「端数を捨てるのはもったいなくて」全て凍結することにした。