深夜3時の帰宅、遊郭経営者の過酷な日々

開沼 本の中には、お店を始めるに当たっての心の揺れも詳細に書かれています。

杉坂 僕も、飛田に入るときはもっとグレーだと思ってましたね(笑)。「絶対に堅気じゃなくなるわ」と思いましたし。

飛田新地や西成を“きれい”にして残るものとは?<br />「漂白される社会」で行き場を失う人たち<br />【スカウトマン・杉坂圭介×社会学者・開沼博】開沼 博(かいぬま・ひろし)
社会学者、福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。1984年、福島県いわき市生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府修士課程修了。現在、同博士課程在籍。専攻は社会学。学術誌のほか、「文藝春秋」「AERA」などの媒体にルポルタージュ・評論・書評などを執筆。読売新聞読書委員(2013年~)。
主な著書に、『漂白される社会』(ダイヤモンド社)、『フクシマの正義「日本の変わらなさ」との闘い』(幻冬舎)、『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)など。
第65回毎日出版文化賞人文・社会部門、第32回エネルギーフォーラム賞特別賞。

開沼 もう1つ興味深かったことに、もしかしたら控えめに書かれていたのかもしれませんが、売上はそこそこあるが労働に見合うものでもないとも書かれていますね。

杉坂 そうですね、サラリーマンと変わらんやんという感じです。最初は女の子に振り回されるんですよね。労働時間で1ヵ月の収入を割ると、下手したらサラリーマンのときのほうがよかったんちゃうと思いました。

 朝は9時頃から準備をして、最初の頃は女の子を迎えに行ったり、夜は夜で、女の子を送り終わると今度は女の子を探しに行って。家に帰るのは2時、3時になってましたから、「これで死んだら過労死だな」とか思ってましたよ。

開沼 もともと就いていた仕事よりは楽しかったですか?

杉坂 楽しいは楽しかったですけど、飛田の仕事をやっているおかけで胃が痛くなったり、夜も眠れないというのはありました。それまでは結構眠れるほうだったのに。

開沼 経営も簡単ではないということですね。

杉坂 そうですね。ホテヘルさんとかデリヘルさんとかのように、10人出勤しようが20人出勤しようが、店が儲かったらいいというわけにはいきません。女の子が3人入ったら、4人目を入れられないですからね。もし入れようと思ったら「なんで入れるの?」と言われてしまいます。

開沼 お金の苦労だけではなく、飛田の経営者ならではの気苦労もあるなかで、経営者として続く人と続かない人にはどんな差がありますか?引退する人や、誰かに譲ることもあるわけですよね?

杉坂 ありますね。疲れたから辞めるというより、「女の子が見つけられないから辞めるわ」ということが多いです。

開沼 商売が成り立たないからと。

杉坂 成り立たないから。

開沼 なるほど。つまり、もともと夜の仕事に関わっていて、自分自身にスカウトの力がある、もしくは周りに安定稼働するスカウトがいるという方が経営したほうがいいと?

杉坂 そうですね、そちらのほうがいいと思います。ただ、女の子を自分で見つける自信がなかったら、スカウトを使わないほうがいいですね。スカウトに依存すると、ぶわ~と女の子を入れてきて「これは良いスカウトだな」と思ったところで、駆け引きしてきますから。いまは10%だけど15%にしてよと。「そりゃ無理や」と言うと、翌日には誰も出勤しません。