西成を潰されると行き場を失う人たち

杉坂 いまはAVなんかもネットで配信になってますよね。月5000円で見放題。AV穣たちのギャラがすごく減っているんじゃないかと思っていて、うちに流れてきてくれたらいいんですけどね。普段はうちで、AVに出演するときだけ東京に行くとか。

 ある風俗では、売れてない子だとは思うんですけど、東京のプロダクションとタッグを組んで結構AV女優を派遣していると聞きます。飛田でももっとAV女優が働いてくれたらいいのになと思いますけどね。ただ、女の子は妬みを全面に出す動物なんで、そういう子が来ると怖いですけどね。

開沼 日々、そういったややこしさはありますか?

杉坂 「女の子はとにかく仲間を作りたがる」というのはほんまにそのとおりやなと思いますよ。どちらかがどっちかと組みますから。

開沼 本の「おわりに」にあるように、飛田で生きる人々が、どれだけ地道に安全と景観を守る活動をしていても、それを忌避する外の人々の動きは止まりません。「治安が悪い」「印象が下がる」「学力が落ちる」という因縁をつけられしまう状況があります。このように社会のグレーゾーンに対する寛容さが失われる構造を私は社会の「漂白」と呼んでいますが、杉坂さんは漂白が進む理由をどう考えていますか?

杉坂 全体的に人と人とのつながりが減っているからじゃないですかね。昔はご近所付き合いがありましたけど、いまはそういうのもないですし。飛田には160店舗ありますけど、知らないオーナーさんなんていっぱいいるんですよ。ただ、月に2回の掃除なんかをすると、やっぱり顔は合わせますから。そこでちょっとずつ。

 昔は、飛田の街中にもダークなイメージがあって、「隣ともしゃべんらんとこ」というのがあったみたいですね。それが少しずつ良くなって、人付き合いという意味でのぎくしゃくした部分が減ってきてます。煙たいもんにはすぐフタをしてしまう風習をなくすためには、人との付き合いが生きてることが大事だと思いますね。

開沼 「煙たいものにはフタ」や「あってはならぬもの」の「見て見ぬふり」が前面に出てきているわけですよね。昨年、部落解放同盟に取材に行きました。同じように、「街の開発しちゃおうぜ」と、そこにある問題自体をなかったことにする動きが様々な形で出てきているという話を聞いています。

 そのとき伺ったのが浪速支部で、西成・飛田ともそれほど遠くありません。すでに東京ではその動きがだいぶ進んでいますし、大阪でも進んでいるように見えます。これから性の部分にも入っていくのかなとも思いますが、いかがでしょうか?

杉坂 大阪の人間からすると西成区の一部なんですけど、たぶん東京の方からすると西成区全部の治安が悪いというイメージがありますよね。西成でも岸里や玉出なんかは住宅街で普通のとこなんですよ。西成区全部が悪いというイメージを取りたいです。

 だけど、「あいりん地区」なんかは、ある意味で救済措置が必要な人たちが来ておられましてね、生活保護を受けずに仕事を待っている方もいらっしゃるんですよね。もちろん、生活保護受給率も西成がダントツですけど、それでもやっぱり、あそこが最後の最後で働ける場所になっています。

 うちらの業界まで、あそこを全部なくして、きれいにしようきれいにしようとなってしまうと、そこにいる人間の行き場がなくなってしまいますからね。僕らからすると置いといてほしいなって思います。

開沼 なるほど。

杉坂 景観どうこうと言いますけど、直接迷惑はかけてないですからね。そう思う人たちが近寄らなければいいんですから。そこまで言われる筋合いはないよと。大阪24区を6区か7区にすると言いますけど、西成がどこにいくのか怖いですよ。どこも引き取ってくれないような気もします。