飛田商店街に見る地方都市再生の課題

開沼 あいりん地区でも東京の吉原遊郭でも、管理なのか救済措置なのかは難しいところです。近代以前から、貧困にしても、性にしても、「あってはならぬもの」が1ヵ所に集められることで、見えにくいながらもそれなりに社会的な位置づけをされていました。しかし、これをなくそう、漂白していこうという状況を多くの人が望んでいて、権力もその動きを利用していくというループは、今後もとどまらないように思っています。

 それに対して、現実はこうなっている、良いことばかりではないかもしれないけど、多くの人の頭の中で肥大化しているほどわかりやすいダークさがあるわけではないし、現にそこに生きている人たちがいると言い続けることが大切だと思います。

 繰り返しになりますが、とりあえず、表面上は社会をきれいにし、煙たいものにはフタをすればいいんだという動きは、現代の政治や情報環境のなかで加速しているように見えます。そして、それは一見すると、「悪いもの」を取り去った「すっきり感」や、糾弾・吊るし上げする「高揚感」を私たちに与えてくれるかもしれません。

 しかし、よく目を凝らして見てみると、いままで1つにまとまっていた問題が分散してしまったり、より見えにくい形にとなって困る人が生まれてしまったり、「隔離・固定化、不可視化」しているだけなのかもしれない。こうした「漂白される社会」の動きに対しては、どうやって抗えばいいんですかね?

杉坂 いますぐにできることってほんまに思いつかないですけど、飛田については、知名度を上げて、クリーンにやってますよと伝えることでしょうか。それでも、「これはダークな仕事だ。表面上はクリーンなことをしてるだけだろ」というバッシングはあるんでしょうけど。だけど、バッシングがあろうがなかろうが、世のため人のために動こうとしてますよという姿勢を貫き通すことは1つですよね。

 あとは組合が中心となって、これは男に対してですけど、遊びに来やすい街作りというのは常に考えています。それから、働く女の子を守るために値段を下げない。そのために、大阪で女の子のレベルの高いところは飛田だと言わせてますけどね。もちろん、それなりの子もいっぱいいますけど(笑)。

 飛田は実物で勝負するわけですから、それを考えれば、うちらが値下げしていたら質のいい女の子は去ってしまう。存続するためには絶対に必要です。いまできることは、本当にそれくらいかもしれませんけどね。

開沼 なるほど。

杉坂 あとね、昔はほとんどの経営者さんがその店に住んでいたみたいです。そうすると、生活用の支出がその周りの商店街に流れて、飛田の商店街も発展していたらしいんですよ。いまはみんな飛田の外で暮らしていて、それによって商店街からも生活できるお店がなくなって、もうシャッター通りです。

 生活部分の出費をもっと飛田の中できるようなシステムを作っていきたい。1軒1軒の親方が飛田の中に住むことはできないですけど、飛田に来たお客さんの財布の紐が緩むような街です。飛田で終わった後、もしくは店に入る前に財布を緩ませる方法はないのか。駅から飛田に来るまでのところが活性化するようになれば、もっと街全体の活性化ができるかと考えています。

開沼 実は、歌舞伎町で飲食店を経営する方、あるいは、ある地方商店街の方からもまったく同じ話を聞きました。昔は、店の上階に店主が住んでいて、1日の生活がそこで完結していたけれど、バブル期の再開発をきっかけに店から居住空間をなくして、生活のベースを街の外に置く人が出てきたそうです。

 すると、夜遊びに来る人はいても、例えば、生活に必要な品物を買うといった面ではお金を落とす人がいなくなり、店舗の種類にも偏りが生まれ、街は廃れ、空洞化していく。つまり、生活しにくい街になります。それによって、人はますます街の外へと出て行き、二度と人が住む街になることはありません。どこの街でも起きている問題なんですね。

杉坂 阿倍野区に「あべのキューズモール」という店ができたので、生活雑貨はそこで揃います。イトーヨーカドーが入っていますし、まずそこで全部揃いますね。ただね、飛田の商店街にも「豊島屋」と「スーパー玉出」という2つの店がありますんで、そこはそこで独自色を出して頑張っていかないといけないですよね。

開沼 杉坂さんは、飛田の街が好きで、存続してもらいたいと考えていますか?

杉坂 そうですね、なんか落ち着きますけどね。飛田の新しい建物はもちろんきれいですけど、どことなく風流な、趣を残したような雰囲気なんですよ。松島新地はどちらかというと欧風の建物に変わってきています。この雰囲気はこれから二分化していくでしょうね。僕は飛田のほうが好きですね。

最終回となる第4回では、飛田新地を形づくる「親方」「おばちゃん」「女の子」それぞれの成り立ちと実態をひも解きながら、「漂白」の進む飛田新地が歩むであろう未来が語られる。続編『飛田新地で働く人たちが街を去る理由とは?現役スカウトが描く「漂白」される飛田の10年後』はこちら


【ダイヤモンド社書籍編集部からのお知らせ】

大人気連載「闇の中の社会学」が大幅に加筆され、ついに単行本化!

『漂白される社会』(著 開沼博)

売春島、偽装結婚、ホームレスギャル、シェアハウスと貧困ビジネス…社会に蔑まれながら、多くの人々を魅了してもきた「あってはならぬもの」たち。彼らは今、かつての猥雑さを「漂白」され、その色を失いつつある。私たちの日常から見えなくなった、あるいは、見て見ぬふりをしている重い現実が突きつけられる。

 

ご購入はこちら⇒
[Amazon.co.jp] [紀伊國屋書店BookWeb] [楽天ブックス]

杉坂圭介氏の著書、『飛田で生きる 遊郭経営10年、現在、スカウトマンの告白』(徳間書店)も好評発売中です。