なかでもカヌー探険のキャストは日焼けしてたくましい。カヌー探検のキャストは自力でカヌーを漕ぐため、ほかのどんなアトラクションキャストよりも体力を必要とする。

 上腕二頭筋がムキムキのカヌー探検キャスト・西堀君に聞いたことがある。

「西堀君はいいカラダしてるけど、ここに来る前に何かやっていたの?」

「いえ、まったくやっていません」

「でもムキムキじゃない」

「ホントに何もやってなくて、ここで3年間、働いているうちに自然とこんなカラダになっちゃいました」

「配属で自分の希望とか体力検査はなかったの?」

「とくにありません。僕も最初はきつかったですけど、向き不向き関係なく、やるしかなければ人間やれるもんです」

 たしかにそんなものかもしれない。女性も何人かいる*が、みんな西堀君と同じく、ムキムキの腕をしていた。彼ら彼女らは、カヌー探検キャストをしているうち、必然的にそういう体に“進化”していくのであった。

 一方、フードサービスキャストはチームプレイが基本の、女性が多い職場である。

 40代から50代と思われる、4人組の女性だった。コスチュームから明らかにフードサービスのキャストだとわかる。

「今度、新しく入った前田さんだけど、何回教えても作業手順を間違えるのよ。足手まといだから、いないほうがマシ」

「そうそう。何度も何度もおんなじことを聞いてくるからホント面倒くさい。それなのに、人が教えているときに全然メモも取らないし。それで覚えられるわけないでしょって」

「山本さんが教育係でしょ。でも山本さんも、前田さんが可愛いからって鼻の下を長くして注意もしないのよ。そのシワ寄せが来るのが全部私のところ。ああ腹立つ」

“夢の国”のバックステージの現実である。彼女たちにしてみれば、ストレス解消の時間なのかもしれないが、横で聞かされるこちらはたまらない。

 自分がいないところでこんなにシビアなことを言われていたらと肝を冷やしながら、隣の席でひとり静かにサンドイッチをほおばるのだった。