他方で、筆者が在京メディアの報道チーフプロデューサー時代、何度も番組にお招きし、話もする中で感じてきた、気さくで誠実な人柄から言えば、地位に恋々とすることなく、「国政に支障をきたさない時期になれば潔く身を退く。そこまでは頑張る」という意味にも解釈できる言葉である。
石破首相が今すぐに
辞められない理由
実際、参院選の投開票日から今日まで、自民党所属の国会議員だけでなく、政治記者仲間とも話をする中で聞かれたのが、以下の内容だ。
「選挙期間中、首相の口から、負けたら辞任をほのめかす発言もあった。首相の側近も、『続投はしても、長く続けるわけじゃない』と言っている」
特に側近の言葉は、以下の政治日程からも理にかなっている。
○今後の政治日程
7月31日 自民党両院議員懇談会
8月1日 アメリカ・トランプ大統領が設定した関税猶予の期限
同 臨時国会召集
8月6日 広島原爆の日
8月9日 長崎原爆の日
8月15日 戦後80年となる終戦記念日
上記のうち、トランプ政権との交渉がまとまらなければ、8月1日以降、日本からアメリカへの輸出品に25%もの関税がかけられてしまう。
自動車に25%の関税が加算されることはないにせよ、自動車が依然として交渉の最大の対立点であることに変わりはなく、この分野で着地点を見出せない限り、これまで交渉を続けてきた石破首相が退陣すれば、途中で放棄する形になってしまう。
また、辞意を表明した瞬間、トランプ大統領は石破首相を交渉相手と見なさなくなるため、党内外から激しい「辞めろ」コールにさらされたとしても、「辞める」とは言えない立場にあるとも言える。
加えて、今年は、広島・長崎に原爆が投下され、太平洋戦争が終わって80年という節目の年だ。各地では重要な式典が続くため、それらに欠席するわけにはいかない。
さらに言えば、消費税率の引き下げひとつとっても、「食料品だけ」「いや、全て引き下げ」などと意見が分かれる野党が、立憲民主党を中心にまとまれるかどうかも見定める必要がある。
だから「引責辞任したくとも、すぐにはできない」というのが、石破首相を少しだけ贔屓目に見た筆者の推測である。