JTC企業にありがちな
「企業内特殊スキル」という偏り

 なぜ、今のミドル世代が、企業内特殊スキルにしがみつきがちなのか。それは、日本の従来の(特にJTCと呼ばれるような伝統的な大手企業における)雇用システムの性質にあります。

 多くの日本企業の人事体系は、ある特定の職種に対しての専門性(プロフェッショナリティ)を高めるよりも、新卒で総合職として入社し、ジョブローテーションを経て、その会社のいろんな部署を経験して、その会社での文化や人間関係、その会社でのプロフェッショナリティを高めるように設計されています。

 これを欧米のジョブ型に対してメンバーシップ型と言ったりします。

 近年、海外のようにジョブ型を採用する企業も増えていますが、実際には、メンバーシップ型の体系がほぼ残った状態で、形式的にジョブ型的な制度をくっつけただけの“ジョブ型の皮をかぶったメンバーシップ型”が実態となっている企業がほとんどです。

 例えば営業部門に配属されて、取引先に覚えてもらったり、知識が少しずつ身についてきたところで、3年くらい経つと異動になることも珍しくありません。次の職場でも同様です。

 その結果、その会社でうまく立ち回る方法は学んだものの、自社を離れた転職市場ではそうした能力は通用せず、いざ転職しようとした時に職務経歴書に書けることがないという現実に直面するのです。職務経歴書に書くべきは、冒頭で2つあると言ったうちのもうひとつの能力、ポータブルスキルだからです。

 ポータブルスキルというのは、文字通り「持ち運びできるスキル」、つまり組織をまたいで活かせる、どこでも通用するスキルのことです。

 具体例を挙げると、エクセルやワード、生成AIの使い方、英語力などの語学、個別の職種での能力、営業、人事、経営、マネジメントなどに関する知識などがこれに当たります。

 そして、悲しいかな、従来の日本の雇用システムでは、さきほど述べたようにこのポータブルスキルを伸ばしづらい構造になっているのです。

 しかし、今の時代に転職を成功させるためには、ポータブルスキルを身につける必要があります。いや、それどころか、最近の会社の人事マネジメントでは、社内の職種を順番に経験させるよりも、何か一つの専門性を上げていくという方向に徐々に変化しており、同じ会社に留まったとしても、給料を上げるためには、結局のところポータブルスキルが必要になってきているのです。

 この変化を裏付けるように、YouTubeの各種チャンネルや、Udemyといったポータブルスキルを身につけるためのプラットフォームやサービスが発展し、注目を集めています。これは社会の要請として、もっとポータブルスキルを身につけてほしいという流れがあることと呼応していると言えるでしょう。