年間100社の起業を
3〜4年で達成する
松尾研のエコシステムはまだ小さなものにすぎませんが、指数関数的に大きくなっています。したがって、もっと社会にインパクトを与えるようになるのももうすぐです。
たとえば、松尾研発スタートアップは累計35社ですが、3〜4年後には年間100社のスタートアップを輩出するようになっているはずです。
指数関数的というのは、複利で効果が効いてくるということです。大きくなり始めて、世の中で認知され出してからが面白い。GAFAM(注2)もそうですが、あれだけ大きいのにまだ年率数十%の勢いで成長しているから、他の会社が追い付けないのです。エコシステムというのは、ちゃんと設計すると掛け算で影響が効いてきて、複利効果が働くものですから、「そこそこ大きくなってきた」と人々が感じ始めてから、そのインパクトが巨大になります。
シリコンバレーや中国・深センなどと比較すると、松尾研はまだ世界中にあるインキュベーション拠点の一つにすぎない小さな存在です。しかし、指数関数的に成長していますから、後はその阻害要因をなくすことを続けていけば、「日本のAIエコシステムもそれなりにすごい」と世界に認めてもらえるようになる。それも、もうすぐではないかと思っています。
日本全体でイノベーション人材、起業家の育成を推進していくために、政府、企業、大学は何に取り組み、どう変わるべきだとお考えになりますか。
先ほどの話と重なりますが、伸びるものを阻害するようなことをやめることですね。自然に伸びようとする力を邪魔しない、そのような環境を整えることに尽きると思います。
企業で言うと、新しいテクノロジーや若い人の才能をどんどん使えばいい。それらをちゃんと活用しながら、既存事業なり新規事業なりを伸ばしていけばいいだけです。テクノロジーのことをわかっていない経営者に、下の人が苦労して説明しなきゃいけない、仕組みややり方を変えませんかとお伺いを立てなきゃいけない。そうしたことは無駄です。その人の能力・才能をもってしても、勝てるかどうかわからない勝負の場に立たせるべきです。そうやって初めて、人は本来持っている才能を伸ばし、成長し、そして手の届かない存在になっていきます。
大学も同じです。本来は学生の能力を伸ばし、社会で活躍してもらうために教育をしているはずです。いまの社会で何が必要なのか、何を教えればそれが武器となって社会で活躍できるのかを考えて、それを教えればよい。
しかし残念ながら、偏差値が高い大学を出たことが社会的シグナルになっていい企業に就職できることはあっても、在学中に学んだことが武器になって社会で活躍できるようになるという例は少ない。あまり言いたくはありませんが、多くの大学で昔ながらのことを教えているからです。
大学で学んだことを武器にして、社会に出て少なくともしばらくは大活躍できるようにしてあげるのが、私は教育者としてすべきことだと思っています。
その先にその人個人の能力が花開くかもしれないし、開かないかもしれません。ただ、教育機関としてできることはしばらく戦っていける強い武器を与えてあげることであり、松尾研はそこに対して忠実にやろうとしている。私からするとそれは自然なことだと思います。
注2)
グーグル(アルファベット)、アップル、フェイスブック(メタ・プラットフォームズ)、アマゾン・ドットコム、マイクロソフトの5社を指す。