「可能性があるか」ではなく
本気でやる気があるかが問題

 最後に、先生のご専門であるAIの分野について伺います。日本はAIの開発も活用も世界に後れを取っていると言われ続けていますが、将来に向けたAIによるビジネス創出、産業変革の可能性については、どのようにお考えでしょうか。

 日本がAIの開発・活用で世界に後れを取っているというのは、残念ながら事実としてあると思います。特に基盤モデルの開発においては、米中の最先端企業に大きく後れを取っている。八方ふさがりに近い状況だと思いますが、そもそもこれはデジタル全般にいえることです。だからといって将来の可能性がないかというと、まったくそうは思いません。「知能を創る」ことに挑戦している松尾研では、「世界モデル(注3)」の研究を推進したり、LLM(大規模言語モデル)やロボット基盤モデルの開発プロジェクトを主導したりしています。できるだけ海外の最先端から遅れないように、できれば先手を打てるように頑張っています。AIの領域はまだまだ革新的な技術が出てきて、今後もびっくりするような大きな進展が次々と起こるはずです。

「ビッグテックには勝てない」と簡単に諦めるのではなく、AIの開発も活用も、そして人材育成も必要なことを着々とやっていくべきです。今後、AIによってどのような新しい産業やビジネスが生まれてくるかわからないからです。大切なのは、当たり前にやるべきことを粘り強く進めていくことです。

「可能性はあるのか」という質問は、「やる気はあるのか」という反問としてブーメランのように返ってくるものと考えるべきです。つまり、「AIによるビジネス創出や変革の可能性はあるか」という質問は、「それを本気でやるつもりがあるのか」という自分自身への問いかけにほかなりません。

「やる」という強い意志があれば、人も企業もみずからのポテンシャルを解き放つことができます。松尾研もそのロールモデルとなれるよう、走り続けたいと思います。

注3)
子どもの知能のように、外界から得られる観測情報に基づき、外界の構造を学習によって獲得するモデル。現実世界で動作し、人をサポートするAIを実現する技術。

 

 

◉聞き手|田原 寛 ◉構成・まとめ|田原 寛 
◉撮影|鈴木愛子