能力がある人は会社をつくる
そのほうが付加価値を出せる
最近では、東大をはじめとする難関大学の優秀な学生の中で、大企業に就職するより起業するほうが「イケてる」と考える人が増えていると聞きます。
能力が高い人が起業するのは、世界的に見れば普通のことです。もちろん人の性格や価値観によって違いはありますが、大雑把に言って能力がある人は会社をつくるべきだし、そのほうが社会に対して大きな付加価値を出せる。日本もようやくそれが当たり前になりつつあるというだけです。
「松尾研・高専発スタートアップ」という仕組みもあって、高等専門学校の学生や高専出身者の創業支援もしていらっしゃいます。
高専は国際的にもユニークな5年制の高等教育機関です。テクノロジーを15歳から勉強していて、しかも実践型で、非常にいまの時代に合った教育だと思います。
そして、15歳で高専に入ろうと決めている時点で、本人にしっかりとした意志があるわけです。そういう人はいまの時代、すごく大事だと思います。もっと活躍してくれるといいですね。
日本にはスタートアップにリスクマネーを供給する資本家や、アクセラレーターなどの支援者が足りないと指摘されてきました。
日本のスタートアップエコシステムも、資金がないわけではありません。国内には2000兆円を超える個人金融資産がありますし、ソフトバンクグループのビジョン・ファンドのように大規模な投資も国内の企業から行われています。問題は、投資先がないということなんです。いくら海外からVC(ベンチャーキャピタル)を連れてきても、投資先がなければ投資はできません。
スタートアップをサポートする側は増えてきました。VCやアクセラレーターの厚みが増していますし、東大にも、古くからスタートアップインキュベーションやアントレプレナーシップ教育に力を入れている先生方がたくさんいます。
ちなみに、海外VCに関して言えば、日本のスタートアップのバリュエーション(企業価値評価)が国際的に見て低いのは、マーケットが国内だからです。最初からグローバルマーケットに出ていくことを前提とした事業を立ち上げる必要がありますが、その場合には海外VCに来てもらう意味も大きいと思います。ただ、グローバルマーケットを狙うのはもちろん簡単ではありません。
日本を変えるには、大企業を変えるのが早いのか、スタートアップを増やすのが早いのかという議論もあります。
一般論として言えば、やはりスタートアップが新しい事業をつくり、それが積み重なって産業がつくられていくほうが早いでしょう。新聞がメディアの覇権を握っていた時代にテレビが出てきて、それが大きくなった。その後インターネットメディアが出てきて、いまや新聞やテレビより強くなっている。
ごく稀に、富士フイルムや、かつてのGE(ゼネラル・エレクトリック)のように自社のビジネスを根本から変えることができる大企業もありますが、多くの会社は抜本的な変革をやり切れないので、産業の衰退とともに自社も衰えていくというのが、自然の摂理だと思います。
しかしながら、大企業全般の危機意識はずいぶん高まっていると感じます。これからの時代、デジタルやAIに取り組むことが事業戦略上、非常に重要だということは誰もが理解しています。最近、ITやデジタルのバックグラウンドを持つ人や、デジタル子会社を立ち上げた人が、大企業本体の役員や代表取締役になる例が増えているのも、その表れだと思います。
デジタルを使って新しいことにチャレンジすることで、個人としてもキャリアパスが開ける。あるいは、もっと端的に言えば、デジタルで成功すると出世できることがわかれば、挑戦する人が一気に増えます。大企業が変わりたいのなら、そういう人事を積極的にやる必要があると思います。