
トライアルホールディングス創業者の永田久男会長は著書で、DXによってメーカーや卸も含め、日本の流通を変革すると豪語。研修や勉強会の場で、トライアルグループの幹部社員だけではなく、食品・飲料メーカーの幹部に対しても、その必要性を説いてきた。そんな“永田イズム”を実現させるための座組みが、本格的に始動している。特集『揺らぐコンビニ3強 トライアルGOの衝撃』#3では、永田会長の描く将来像と、その実現を担う座組みの面々について解説する。(ダイヤモンド編集部 片田江康男)
“永田イズム”実現へ
座組みが本格始動
「セブン&アイはこんなにカネを使って、信じられんのぉ」
セブン&アイ・ホールディングス(HD)は、2020年度に総額約1200億円もの巨費を投じたDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略が失敗。その顛末を聞いたトライアルホールディングス(HD)の永田久男会長は、周囲にそう話したという。
中でも永田会長が驚いたのが、セブン&アイHDがコンサルティング各社に発注した金額。トップはアクセンチュアで約84億円だった(詳細は『【スクープ】セブン&アイDX案件の「受注額が高いITベンダー」ランキング、極秘リストで53社の実額判明』参照)。
トライアルHDはDX戦略を進める上で、「コンサルは使わない。取引はほぼゼロ」(トライアルHD関係者)。永田会長自身がプログラミング言語を扱うエンジニアでもあるため、自社のDX戦略は自ら考え、自ら組み立てるのが基本なのだ。そのためコンサル1社に84億円も支払うことは、同社では起こり得ないことだという。
小売・外食業界での売上高に占めるIT予算比率は、異常値を除く平均値で0.94%(24年度。日本情報システム・ユーザー協会調査)だ。トライアルHDの25年6月期の連結売上高は8038億円で、セブン&アイHDが支払ったアクセンチュアへの84億円は、トライアルHDの年間IT投資額に匹敵する規模ですらあったのだ。永田会長が驚愕したのも無理もないことだった。
もっとも、トライアルHDは外の力を一切活用しないわけではない。むしろ積極的に使うオープン戦略だ。トライアルHDとNTTは24年1月、サプライチェーン・マネジメント(SCM)最適化に向けて連携協定を締結した。永田会長は著書『勝ち残るためのリテールDX トライアルグループが挑む新・流通革命』(大浦芳久編)の中で、日本中のメーカー・卸・小売りを巻き込んだSCM変革を提唱している。いわば“永田イズム”の発想に、NTTが共鳴した形だ。
次ページで解説するが、今やトライアルHDとNTTは単なる連携相手を超えて、永田イズムを共に広める、同志のような間柄だと言っていい。
トライアルHDは11月から、東京都内で新たなコンビニ業態「トライアルGO」の本格出店を始める。NTTとの協業で得られたノウハウは、今のところトライアルGOには導入されていない。ただしセブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンのコンビニ3強は、NTTと組んでサプライチェーン構築とコスト削減に心血を注ぐ、これまでにない相手と競争することは肝に銘じた方がいいだろう(詳細は『ファミマ・セブン・ローソン・まいばすに激震、コンビニ「トライアルGO」都内初出店地が判明!九州発ディスカウントストアの雄トライアルHDが関東進出』参照)。
次ページでは今夏、永田イズムを実現させるために始動した座組みについて解説する。