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残業時間規制は、中小企業に適用され始めた2020年4月時点では労働需要が落ちていたため、影響が見えなかった。だが、23年5月以降の需要回復で労働供給が追随できず、人手不足が表面化した。労働需給を過小評価していた政府は残業時間規制の緩和を打ち出しているが、望ましい解決策は規制緩和ではなく、過大な労働需要をもたらす低い時間当たり実質賃金の是正と省力化投資だ。(BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト 河野龍太郎)
人手不足を招いた一因は
働き方改革
2023年半ばから、日本国中、深刻な人手不足にある。筆者は、早い段階から、19年4月に法制化された残業時間規制が大きく影響していると訴えてきた。中小企業に適用されたのが20年4月のコロナ禍だったため、当初は影響が表れず、コロナ禍が明けた23年5月以降、大きな影響が表れるようになったのだ。
需要動向に合わせて労働時間を伸縮させるというのが、日本の産業界の強みでもあったため、相当に深刻な問題なのだが、この問題は、長く気付かれてこなかった。
ようやくこの問題を認識する人が増え、厚生労働省は働き方改革の総点検を実施し、与党内でも労働時間規制の見直し論が出ている。高市早苗首相は上野賢一郎厚労相に対して、「心身の健康維持と従業者の選択を前提にした労働時間規制の緩和の検討」を指示した。果たして残業時間規制を見直し、長時間労働を是認すべきなのか。
次ページでは、働き方改革の影響を分析するとともに、人手不足解消に向けた方策を検証する。







