BCG泥沼訴訟 丸投げリストラの全内幕Photo:PIXTA

ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の助言を受けてアパレル大手TSIホールディングスが実行したリストラでは、退職を拒んだ社員を一律に店舗のバックオフィス業務へ異動させる方針が取られていた。本社内で“倉庫送り”と呼ばれた異動を伴う退職勧奨は、違法な退職強要に当たるのか。長期連載『コンサル大解剖』内の特集『BCG泥沼訴訟 丸投げリストラの全内幕』第7回の本稿では、現行人事制度の骨格策定を責任者として担った人事管理職OBが取材に応じ、自ら改定した等級・報酬制度の仕組みを基に、この異動が給与の大幅な減少を伴う不利益処分に該当する可能性が高いことを明らかにする。(ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)

TSI人事企画の中枢が取材に応じる
自ら改定した制度でTSIの説明に異議

 ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)がアパレル大手TSIホールディングスに示したリストラ案の骨子は、本社で約2割の“不要人材”を選び出し、退職を拒んだ場合は店舗のバックオフィス業務などへ異動させるものだった。

 TSIの元法務課長が起こした訴訟で、BCGは「退職勧奨に応じない従業員については、使用者の裁量の範囲内で配置転換等を行うことも予定されていたが、それによって退職勧奨が違法となるものではないことは論を俟たない」と述べている。TSIも、店舗への配置転換は適法な人事権の行使だとして、同趣旨の主張を展開している。

 だが、その配置転換が不利益を伴うなら、話は別だ。退職勧奨の前提は、社員が退職を拒んだとしても、それを理由に不利益な異動を科さないことにあるからだ。

 本社内で“倉庫送り”と呼ばれた配置転換について、本特集の第6回までで、少なくとも本人のキャリアと無関係な異動であることを示してきた。不利益処分かどうかを判断する上で残る論点は、異動によって処遇がどれほど下がるのか、という点である。

 それを見極める鍵が、TSIの等級・報酬制度にある。同社は2024年3月、複数に分かれていた本社職の人事制度を一本化し、販売職も含めた全社人財要件・評価運用の改定を行った。

 この改定において中心的な役割を担い、全体を統括したのが、人事管理職OBのA氏である。

 A氏は新人事制度の設計から、人財要件の作成、経営陣・部門長向けの説明、評価者研修の企画・実施までを統括し、TSI人事企画の中枢を担った人物。24年のリストラが始まる前に自己都合退職したが、退職の一報に下地毅社長が大きな衝撃を受けたほどだ。

 そのA氏がダイヤモンド編集部の取材に応じ、リストラ訴訟でTSIが「店舗のバックオフィス勤務への配置転換は不利益ではない」と主張している点について、自ら改定した人事制度との整合性の観点から「重大な齟齬(そご)がある」と指摘。「この異動は、特に対象者が管理職の場合、不利益処分に該当する可能性が高い」と明かした。

 次ページでは、A氏が策定責任者を務めた人事制度の等級要件や年収レンジを基に、本社の管理職から店舗のバックオフィス業務への異動が、給与の大幅な減少を伴う不利益処分に該当する可能性が高いことを立証する。等級別の年収レンジに基づく試算では、異動によって年収が数百万円規模で下がる見通しであることが判明した。