Photo by Takeshi Kojima
「今日は大変いい日です」
ソフトバンクの株主総会が開かれた6月21日、約4000人の株主らを前に、孫正義社長は満面の笑みを浮かべてこう語った。
なぜならば、懸念されていた米通信事業者3位のスプリント・ネクステルの買収に、ついに王手をかけたからだ。
昨秋の買収合意の後に、ソフトバンクにとって厄介な相手がスプリントとの間に割って入ってきた。それが米衛星放送大手のディッシュ・ネットワークであった。ソフトバンクの201億ドル(現在約2兆円)の提案に対し、今年4月には255億ドル(約2.5兆円)で買収提案してきたのだ。
ソフトバンクは6月11日、スプリントの株主を納得させるため15億ドル(約1500億円)を上乗せしてディッシュに対抗、それに対してディッシュは18日に「買収を断念する」と発表した。これが孫社長の気持ちを楽にした一つの要因である。
ただし、ディッシュは、スプリントの“虎の子”である米クリアワイヤにも食指を伸ばしていた。ここには、ベライゾンやAT&Tという米通信業界の2強と戦う上で欠かせない160メガヘルツの周波数帯という貴重な資産がある。スプリントは、クリアワイヤの周波数帯を利用して高速通信網を整備しようとしており、51%の株を取得し、完全子会社化する予定だった。
そこに目をつけたディッシュがクリアワイヤに株式公開買い付け(TOB)を仕掛けてきた。当初、スプリントが1株2.97ドルで値をつけたのに対し、ディッシュは1株4.4ドルの高値を提示したため、クリアワイヤ経営陣もディッシュの提案を支持せざるをえなかった。
6月21日には、スプリントも負けまいと1株5ドルで対抗すると、敵に”寝返った″クリアワイヤ経営陣や株主が翻意し、ようやくディッシュの提案を蹴ったのである。
7月8日に再び延期された臨時株主総会が終わるまではまだ火種が残るものの、果てしない価格引き合戦は一応のめどがついたとみられている。つまりは、ソフトバンクの米国進出が実現に向かって大きく前進したのだ。