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衆院選で圧勝した高市政権が掲げる積極財政は、「自爆リスク」を招き寄せている。デフレからインフレへと経済情勢が変化した中で、円安と債券安だけでなく、株安も招く「トリプル安」の恐れがあるからだ。アベノミクスとは異なる危うさを抱える中、自爆回避の鍵を握るのはトランプ米大統領のある「戦法」かもしれない…。(時事通信社解説委員 窪園博俊)
「財政拡張」論者を重用した高市氏
“バラマキ”懸念が金利上昇を助長
2月8日の衆議院議員選挙は、高市早苗首相率いる自由民主党が圧勝した。同党が過半数を割る参院で法案が否決されても衆院で再可決できる。「何でもできる無敵の政権」とも言えるが、現実は甘くない。高市政権の看板政策である「責任ある積極財政」は財政規律を失えば、為替・債券・株式がそろって売られる「トリプル安」を招き、政権運営の自爆リスクをはらむ。
まず、昨年秋の高市政権発足前後からの金融市場の動向を振り返ってみたい。特徴的だったのは、金融市場でこれまでほとんどみられなかった反応が起きたことだ。円と債券がそろって売られたのだ。高市首相が経済政策の柱として積極的な財政出動を掲げたからだ。「責任ある」との枕ことばが付くが、膨大な公的債務が積み上がったもとでの大規模歳出は「深刻な財政悪化を招く」(運用会社エコノミスト)と懸念され、円安と債券安(金利上昇)が同時進行した(以下、債券動向は金利ベースで説明する)。
ここで少し疑問に思う向きもあるだろう。「なぜ今になって金利が上がるのか」と。日本では、1980年代後半のバブルが崩壊して以降、何度も財政出動が繰り返された。その結果、膨大な公的債務が積み上がったが、金利上昇のトレンドが顕著になったことはない(金利急騰劇はあったが一時的だった)。この数十年は、むしろ金利は総じて低下基調をたどった。それなのに高市政権になって急に金利上昇が鮮明になったのは、経済・物価情勢が変わったからだ。
バブル崩壊で日本経済は早い段階で「流動性の罠(わな)か、それに近い状態に陥った」(複数の日銀OB)とみられる。「流動性の罠」とは、資金需要の低迷で金融緩和の効果が乏しくなることだ。財政出動も小出しでは、流動性の罠を抜け出すには十分ではない。資金需要の低迷を「デフレ」と称してもいいだろう。ところが、コロナ禍から抜け出して状況は一変した。資源価格の高騰と円安が重なり、デフレ局面から一気にインフレ局面に入ったのだ。
そうした中、積極財政を掲げる高市政権が登場。「過激な財政拡張論を唱える人材をアドバイザーとして重用したことが財政バラマキのイメージを強めた」(別な運用会社エコノミスト)ことも金利上昇を助長した。
歴代政権は財政運営では、結果的に公的債務は積み上がっても、健全性維持に努める姿勢を示した。これに対し、高市政権はアドバイザーらの存在もあり、「放漫財政に走る印象を与えた」(外資系ファンド幹部)という。インフレ下の放漫財政は「余計にインフレを招く」(同)との懸念が先行したわけだ。
高市首相は、安倍晋三元首相(故人)の経済政策「アベノミクス」の継承をうたう。ただ、単なる継承ではなく、力点を変更した。この「変更」が「自爆リスク」を抱えることになった。
アベノミクスから力点を変更した高市氏の政策が、なぜ「自爆」につながるのか?次ページでは、そのメカニズムを解説する。







