「解雇規制の緩和が実現すれば、ブラック企業がますます猛威をふるうようになる」

そう強く主張するのが、労働相談を中心に若者の格差・労働問題に取り組むNPO法人POSSE代表の今野晴貴氏だ。さらに今野氏は、政府が行う「限定正社員改革」について、ただ解雇をしやすくしたいだけという目的に沿った「偽物」の改革ではないか、と指摘する。(本アジェンダの論点整理については第1回の編集部まとめを参照)

“自己都合退職”を企業が偽装
「若者の離職」の実態とは

こんの・はるき
NPO法人POSSE代表。1983年生まれ。仙台市出身。一橋大学大学院博士課程。過労死防止基本法制定を支持。著書:『ブラック企業』(文春新書)、『日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか?』(星海社)。雑誌『POSSE』を発行。

「日本では解雇が厳しい」。「雇用の硬直性が日本の生産性を損なっている」。こうした議論が大きな力を持っている。しかし、「解雇が厳しい」というのは、現実の実感からずれていると思っておられる方も、多いのではないか。実際のところ、日本における解雇は難しくはない。まずは現場の実態から、この議論を検証していこう。

「離職の傾向」を調べていくと、日本の解雇の実態が見えてくる。実は、日本の解雇の多くは「自己都合退職」という別の離職形式に偽装されているからだ。

 近年、若者の離職率が高い割合で推移し、正社員になっても辞めていく若者が多いことは、すでに広く知られているところである。大学新卒の3年以内離職率は、3割にも上り、高止まりしている。それも、そのうちの7割が「自己都合退職」とい形で辞めている。

 この数字だけを見ると、解雇の問題とは関係なく、「勝手に辞めてしまう若者が増えてしまっている問題」というように見えるだろう。だが実は、私が日々受ける労働相談の現場では、次のような相談が非常に多い。

「自己都合退職を強要されているのですが、どうにかならないでしょうか」

 つまり、若者が「勝手にやめている」と思われている中には、相当数の「退職強要」が隠されているのである。また、直接的な退職強要ではなくとも、違法行為に耐えかねて、結果として「自分から」辞める若者も相当する存在する。

 下表は、私が代表を務めるPOSSEが、2010年に全国のハローワーク前で行った調査の結果である。全国(東京、大阪、京都、仙台)のハローワークで、ランダムに若者500人を調査した。そのうち、大卒後正社員となり、しかし自己都合退職してしまった者は189人であった。

 一番上の段は、この189人の内、違法行為が原因で辞めた方の数である。二段目は、違法行為はあったが、それが直接の離職理由ではないという方。合わせると、半数近くになる。特に、長時間労働(厚生労働省の基準以上)がひどい。

 少なくとも、この調査から、「自己都合退職」は若者が気まぐれで、甘えているから7割に上っているのではないことは推察できる。これが、「解雇」の実数を減らしている。「解雇がしにくいこと」の問題以上に、「解雇」をせずに、不法に「辞めさせている」という実態があるわけだ。