Photo:EPA=JIJI
フォンデアライエン欧州委員長が原子力を遠ざけた過去を「戦略的に誤りだった」と総括し、欧州は次世代原発の推進へとかじを切り始めた。ロシア産ガス喪失後に深まった米国産LNG(液化天然ガス)依存の見直しにもつながるこの転換は、化石燃料需給やユーロ相場、日本の電源構成にも中長期で波及する可能性がある。(みずほ銀行チーフマーケット・アナリスト 唐鎌大輔)
「戦略的に誤りだった」
欧州委トップ、原発縮小路線を転換
フォンデアライエン欧州委員長は3月10日、パリでの国際会議で演説し、原子力発電について「背を向けたのは欧州にとって戦略的に誤りだった」と振り返った。
その上で「私たちは欧州が次世代原子力エネルギーのグローバルハブとなるべく、スピードと規模感をもって動くという野心を持っている」と述べ、今後は再生可能エネルギーとともに次世代原発の導入を推進する方針を表明した。
脱原発方針からの決別表明である。EU(欧州連合)の多様性や環境への配慮方針は経済安全保障の観点から持続可能ではないとの思惑が近年、常々指摘されていた。現に、国別事例を見れば、今回の発言は現状追認ともいえる。
例えばイタリアのメローニ政権は1987年に表明した脱原発方針を撤回し2025年2月に原発復活の法案を閣議決定している。また、ベルギーもやはり25年に脱原発方針を撤回した上で、原発新設の認可禁止を定めていた現行法を撤廃し、原発新設を可能な体制にシフトしている(つまり新設可能な状態に変わっている)。
類似の動きはスウェーデン、リトアニア、スイスでも見られ、ポーランドは今年、初の原発建設に踏み切る。要するに、今回のフォンデアライエン講演は現状追認であり、理想が現実に敗北した節目と整理することもできそうである。理想が現実に敗北しつつあったところ、公式にその事実が認められたという意味でEUにとっては一つの節目と整理できるだろう。
環境イデオロギーともやゆされるEUのエネルギー政策は22年のウクライナ侵攻を契機として動揺が始まっていた。安価なロシア産天然ガスの供給を失い、23年以降はドイツの脱原発完了(と中国との関係悪化)を経て域内の成長エンジンを失っていた。
「脱原発・再生可能エネルギー推進」という理想をうたい続けるには経済的余裕が必須だが、ドイツが長期停滞に入り、フランスが政局混乱を続けているEUにその力がないことは明らかである。
天候や季節に左右されず最低限の電力を供給できる原子力への回帰は合理的な選択肢ではあるが、今後も域内で思想対立を引き起こす恐れがある。とりわけドイツ国内では政治思想の左右にかかわらず脱原発は強力な支持基盤がありそうである。
しかし、EU経済が生存するためには原発回帰を主軸とする「現実路線への回帰」が必要というのが今回のフォンデアライエン講演が認めた事実であり、こうした節目を踏まえた上で、市場参加者は当面の経済・金融情勢への意味を考える必要がある。
次ページでは、経済・金融市場への影響を分析する。







