英国のSMR選定商談に残った米ウェスチングハウスのSMR「AP-300」英国のSMR選定商談に残った米ウェスチングハウスのSMR「AP-300」 写真提供:ウェスチングハウス

米グーグルが、脱炭素電源として次世代原発に触手を伸ばし始めた。小型モジュール原子炉(SMR)技術の開発を進める米企業と契約を交わしたのだ。AI(人工知能)の普及で大幅な増強が求められるデータセンターは、今後電力需要を爆発的に押し上げると予測されており、その電源としてSMRが急浮上している。米アマゾン・ドット・コムも開発を進める企業の資金調達に協力を決めたほか、日本では東芝や三菱重工業が独自に開発を進めている。小型で安全で経済的といわれるSMRではロシアや中国が商用段階に入ったほか、韓国、英仏カナダの有力企業も国を挙げて開発に乗り出し世界的なブームとなっている。しかし、そこには二つの落とし穴がある。世界各国の有力企業の開発状況とともに日本が参加する商談の最新状況も一挙公開する。(エンジニアリングビジネス編集長 宗 敦司)

グーグルやアマゾンは
「四角い電力」を求め次世代原発へ

 米グーグルは10月14日、米国の小型モジュール原子炉(SMR)開発企業であるカイロスパワー(Kairos Power)とプラント開発契約を交わした。カイロスパワーが開発しているSMR技術で原子力発電プラントを建設、運営し、PPA(電力購入契約)を結んでグーグルが供給を受ける。SMRはグーグルの複数のサービス地域に設置され、24時間365日、電力を供給する。電力は2030年までに供給を開始、35年までに合計50万キロワット(kW)の規模で供給する予定だ。

 これが大きな話題となっている理由の一つが、データセンターへの電力供給手段としてSMRが選定されたということ。今後AIの普及でデータセンターの建設が活発化すると予測されている。その一方でプラットフォーマー各社は脱炭素に向けて、クリーン電源の調達を拡大している。当然、新たに建設されるデータセンターの電源もCO2を排出しない電源を活用する意向だ。最有力なのは再生可能エネルギーだが、再エネには弱点がある。

 データセンターは24時間365日、常に稼働している。そこで必要となるのは「スクエア(四角い)電力」だ。縦軸に電力消費量、横軸に時間を取ってデータセンターの電力消費推移を見れば、その図は四角くなる。つまり24時間265日安定した電力が必要なわけで、供給されるCO2フリー電源にもそうした特性が求められるが、再エネは気候などで変動があるため、そのままではうまく合致しない。原子力であれば、スクエアなCO2フリー電力を供給することが可能になるというわけだ。

 SMRは小型でモジュール化されており、建設期間が比較的短く、建設コストも安くなると見積もられている。安全性についても自然冷却や溶融しない核燃料の採用などさまざまな形で考慮されており、SMR企業各社は高い安全性と経済性をアピールしている。出力は1モジュール当たり数十万kWと小規模で、送電線の負担も小さく、地域に立地しやすい。データセンター向けCO2フリー電源として、グーグルがSMRを選定したことには多くのメリットがあるわけだ。SMRには発電だけでなく産業用の熱供給、水素製造など、多様な使い方があるのも注目される要因といえる。

 そもそもSMRとは小型でモジュール化された原子炉という意味で、その技術には既存の軽水炉や、高速炉、高温ガス炉などさまざまなものが提案されている。カイロスパワーのSMR技術はその中でも独特なもので、ぺブル(粒状)のセラミック核燃料を炭素被膜したものを用いており、通常の軽水炉より高温で安定した運転が可能となる。冷却材が失われたとしても、セラミック燃料であるため溶融しにくく、メルトダウンも発生しないという安全性がある。

 冷却材として熱伝導性の高い低圧フッ化物塩を使っており、高温で運転できるので発電効率は高くなる。また運転時の圧力が大気圧とほぼ同等であることや、電源喪失時のパッシブ冷却なども安全性も高めていることが特徴だ。すでにテネシー州オークリッジで低出力実証炉の建設を開始しており、早ければ27年に稼働する予定だ。

 今回の提携は、カイロスパワーにとっては、電力の引き取り先を確保したことになる。これにより、実証炉に続く商用炉へのスケールアップに向けた資金調達が容易となり、実現に向けた大きなステップを踏むことになる。米国ではほかにも、アマゾンが40年までに350億ドルを投資してバージニア州にデータセンターを設立するとしており、SMR開発企業であるX-エナジーとSMR開発で提携している。さらにマイクロソフトはスリーマイル島原発と20年間の供給契約を交わし28年に再稼働する予定など、データセンターへの原子力発電から電力供給への動きが高まっている。

 にわかに高まるSMRの世界的ブームだが、実は死角が存在する。次ページでは、米国にとどまらず、日本を含む世界の有力企業の開発状況が分かる一覧リストを一挙公開し、日本勢も参加する商談の最新状況を紹介する。また、まだ語られていないSMRブームに潜む二つの落とし穴を明らかにする。