もう動けなくなってしまった小3男子のエピソード

「もう塾に行きたくない!」と話すSくんの目は、すっかりうつろでした。
 そのとき、いつもは元気で声にハリがあるSくんは、別人のように笑顔も消え失せていたのです。
 Sくんのお母さんは、公立病院の小児科の看護師です。
 わが子の様子にプロの立場から、「この状態は危ない」と、直感的に判断したそうです。

 これは、Sくんが、小3の5月頃のエピソードです。
 紹介で私の塾にきたSくんのお母さんは、堰を切ったように、そのときの様子を話しました。
 Sくんは、当初、自学自習が目的のプリント学習指導の教室に通いましたが、ある時期から、進度がピタリと止まってしまいました。
 指導者から何の説明もないまま、同じプリントを3度やりなおすことがきっかけで、Sくんは「他の塾に行きたい」と言い出したそうです。

 新しい塾の環境はSくんには合わず、次第に追い詰められていきました。 
 Sくんはどんどん落ちこんでいき、徐々に口数が減り、外にも遊びにいかなくなったそうです。

 原因は、塾の授業のたびにある漢字テストでした。
 1回20問の漢字テストは、すでに小5の範囲で、小3のSくんには難しいものでした。
 入塾後1ヵ月たっても、一度も合格点の80点をとれません。
 合格点がとれなければ、次回に再テストがあります。
 次の範囲のテストと再テストの勉強がたまりだし、Sくんは、自分がいったいどこの範囲のどのテストを受けなければいけないのかがわからなくなっていたようです。
 お母さんは、慌てて手伝いましたが、Sくんの様子は変わらず、悪化していくのがわかりました。

 そして、5月の連休明けに、
「俺、やっぱりやめたい」と言ったSくんは、もう動けませんでした。
 それを見たお母さんは、塾をやめさせました。
 その後、Sくんの意志どおり、過度な負担のない日々を送らせていたそうです。
 ただ、お母さんは気がかりでした。
 Sくんには、あこがれの職業があったからです。
 お母さんは、知り合いから私のことを聞き、来塾されたのです。