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民主主義の手段としてのオープンデータ

佐藤一郎 [国立情報学研究所・教授]
【第8回】 2013年7月16日
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オープンデータは直接民主主義につながる!?

 当たり前のことですが、オープンデータは手段にすぎません。重要なのはオープンデータで世の中のどんな課題を解決するかという目的です。でも、昨今のオープンデータの議論は、行政機関を含む他者が持つデータの利用・再掲載そのものが目的化してしまっているところがあります。

 オープンデータを推進される方の中には、行政オープンデータの目的として、行政機関が持つデータを通して、各事業者のビジネス機会が増えることをあげられる方もおられます。もちろん、それはそれで間違っていないと思いますが、いさかか近視眼的な目的にみえます。むしろ著者は行政オープンデータは行政・政治への透明性を向上させることで、民主主義を支援・発展させるための手段と考えています。

 議会制民主主義というのは、行政機関の監督者となる議員を選挙で選ぶことで、有権者は行政機関を間接的に監督する仕組みといえます。ただし、行政機関に関する情報について、残念ながら有権者からみえる情報は行政機関の方や議員の方が見える情報よりも少ないことが多い。つまり有権者と行政・政治には情報格差があります。

 行政オープンデータの目的の一つは、有権者に行政機関の方や議員の方と同等の情報を提供することで、情報格差を減らして、結果として行政機関及び議員に対する監視性を高めることのはず。

 例えば行政機関や議員が、必要性の乏しい道路の建設を推進しようとしていても、いまの有権者は周辺道路の交通量データを持っていないので、その道路の必要性や不要性を判断できません。しかし、行政オープンデータを通じて、周辺道路の交通量データが入手可能になれば不要性がわかるし、そのデータを根拠に反対することもできます。

 ただし、一方で市民の責任が増えることにもなります。いままではデータが見られなかったので、仮に不適切な行政施策が行われたとしても、市民は「知らなかった」「行政機関や議員の責任」と言えました。しかし。行政オープンデータを通じて、その施策に関わるデータにアクセスできるようになれば、知らなかったと言えませんし、施策に対する責任も増すことになります。

 言い換えると行政オープンデータは、行政や政治の透明性を高めることで民主主義を支援する手段になりえます。しかし、それは同時に市民にとって「知ることの結果責任」を伴うことにもなります。

安全保障とオープンデータ

 国内ではほとんど報道されませんでしたが、今年の6月にイギリスで開催されたG8サミットにおける首脳コミュニケに、オープンデータ憲章について合意したことが明記されました。外務省が発表した首脳コミュニケ和訳にもオープンデータ憲章が掲載されています。その一部を紹介しましょう。

  (引用始め)

オープンな政府データは、情報時代の不可欠な資源である。データを公共の場に移すことは、市民の生活を向上させ、また、これらデータへのアクセスを拡大することは、イノベーション、経済成長及び良い雇用の創出を促進し得る。政府のデータを原則として一般に入手可能とし、機械判読可能で、容易にアクセス可能かつ開かれた形式にて無償で再利用可能とすること及び公衆がその内容や意味を容易に理解できるようにこれらのデータを明確に説明することは、民間部門のイノベーター、起業家、そして非政府組織によるイノベーションのための新たな原動力となる。オープンデータもまた、国々によりどのように天然資源が使われるか、どのように採取収入が使われるか、そしてどのように土地が取引され管理されるかについて認識を高める。

以下の原則を含むオープンデータ憲章に合意し、公表した。
• 原則としてデータを公表する ― 政府データが、プライバシーを引き続き守りつつ、オープンに公表されるとの期待を醸成する。
• 質と量 ― 質の高い、時宜を得た、そして十分に説明されたオープンデータを公表する。
• すべての者が利用できる ― 可能な限り多くのデータを可能な限り多くの種類のオープンな形式で公表する。
• ガバナンス改善のためのデータの公表 ― 専門性を共有し、データ収集、基準及び公表プロセスに関して透明性を確保する。
• イノベーションのためのデータの公表 − 利用者と協議し、将来の世代のイノベーターの能力を強化する。

  (引用終わり)

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佐藤一郎
[国立情報学研究所・教授]

国立情報学研究所アーキテクチャ科学系教授。1991年慶応義塾大学理工学部電気工学科卒業。1996年同大学大学院理工学研究科計算機科学専攻後期博士課程修了。博士(工学)。1996年お茶の水女子大学理学部情報学科助手、1998年同大助教授、2001年国立情報学研究所助教授、を経て、2006年から現職。また、総合研究大学院大学複合科学研究科情報学専攻教授を兼任。
専門は分散システム、プログラミング言語、ネットワーク。

佐藤一郎のパースペクティブ

分散システムの研究を核としつつ、ユビキタス、ID、クラウド、ビッグデータといった進行形のテーマに対しても、国内外で精力的に発言を行っている気鋭のコンピュータ・サイエンス研究者が、社会、経済、テクノロジーの気になる動向について、日々の思索を綴る。

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