陰謀論者の豊かすぎる想像力

磯部 本の感想を知りたくて、書名でエゴサーチをしているんですが、例えば陰謀論系反原発派のひとたちには、開沼さんに参加してもらったことをこう見るか!と驚かされます。

開沼 何に見えているんですか?

磯部 「あいつらは原発問題から目を逸らさせるために風営法問題を取り上げているんだ」と(笑)。

開沼 すごいですね。それはいくら考えても出てこないアイディアだ。相当な陰謀、とてもクリエイティブですね(笑)。

磯部 想像力が豊かですよね。野間易通さんもそういう人たちにとってはもんじゅくんの中の人で、広告代理店と繋がっている隠れ推進派なので、「やはり、あいつらは原発問題から目を逸らさせるために(ry」みたいな。

 開沼さんと野間さんは対立とまでは言わないまでも、異なった意見を持っているわけで、その2人に参加してもらうことで幅広い意見を聞こうとしているとは考えてくれないんですよね。

 あるいは、ネトウヨも引っかかってきます。「クラブ事業者には在日が多いらしい。そんな業界についての本に野間が参加しているということは、風営法改正運動とは在日特権を守るための運動だ」とか(笑)。

開沼 それもまた、すごい想像力ですね。

磯部 彼らはどんなところにでも陰謀を見出します。それは、両義性を理解することとは真逆な行為ですよね。陰謀論とはすなわち関係妄想。複雑な現実に耐えられなくて、安易な答えを導き出しているに過ぎません。現実は彼らが思っているよりも複雑で、あるいは、単純だとしか言いようがないんですけど。

開沼 その通りですね。とはいえ、彼らはそれなりに良かれと思って、思い入れが強いが故に、そんな妄想を始めてしまうところもある。陰謀論を持ちがちな方々に「関わってくれ」と言ったほうがいいのか、関わらないでくれって言ったほうがいいのか、難しいですよね。復興支援を職とする者として、その悩みは常にありますよ。

磯部 開沼さんが社会学者の立場から考える、彼らに対する処方箋を伺いたいです。いま、社会に対する問題意識が高まっているからこそ、陰謀論者が生まれてきてしまっている面もありますよね。つまり、先ほど述べたようなコミットメントの弊害です。

開沼 繰り返しになってしまいますが、僕の処方箋は、かつては良くも悪くも共同体に包摂され、そのしがらみの中で思考をしてきた人々が個人化されてしまい、1人ひとりに目の前の不可解な事象、コントロールしきれない事象についての判断が任されてしまっている状況があって、そのなかで、突然、とてもきれいな1つの物語が提示されてしまうと、そこに少なからぬ人が吸引されてしまう状況は必ず出てくると思っています。

 これは、橋下徹現象をはじめ、ポピュリズム政治的なものが再生産されてきたことにも反映されていると思います。では、そこをどう抑えるかというと、健全な中間集団をつくることで、みんなで考えよう、定期的に、持続的に考えよう、一面しか見えておらず極端な考えを持つ人に「まあまあ」と言い合えるようにしよう、という前提をつくること。そのうえで、いろいろな意思決定や情報を摂取する方向だと思っています。

 それは、古い保守主義者が主張するような、「かつてのような規範的な家族の再構築」「国家・郷土への愛」につながるほどナイーブではありませんし、かといって、古い革新主義者が期待するような、労働組合や市民運動を盛り上げれば万事解決というようなものでもない。地域社会や業界団体・組合の悪しき部分を、世代や利害を入れ替えながら、現状に適合するようにアップデートしていくということです。それが成功するのか、ここ10年、20年の動きを見ていく必要はあると思ってます。

磯部 例えば、在特会は個人と社会を結びつけるクラウド化された運動ですが、彼らが問題を起こした仲間をフォローしないことはよく知られた話です。つまり、中間集団としては機能していない。安田浩一さんなどは、初期には関わっていたベテランの活動家がそれに呆れて次々と抜け、中間団体としてさらに弱体化すると共に、行動が暴走していると指摘しています。