成功は8割の反対からうまれる

 とはいえ、わたしだって昔は怒られるのが嫌でした。
 できればみんなからほめてほしかったし、怒られたりバカにされたりすると、ひどく落ち込みました。ヘビ型のロボット内視鏡が学会でまったく相手にされなかったときなど、正直、とてもいやな気持ちになりました。

 そんなわたしにとって大きな救いとなったのが、日本におけるロケット開発の父であり、「ペンシルロケット」の生みの親として知られる糸川英夫先生です。最近の若い読者の方々には、ペンシルロケットというよりも、あの小惑星探査機「はやぶさ」を思い出していただくほうが早いかもしれません。「はやぶさ」が着陸し、見事サンプルを持ち帰った小惑星の名前は「イトカワ」でした。もちろんこれは、糸川英夫先生の名にちなんでつけられたものです。

 わたしは糸川先生から直接指導を受けたわけではありません。それでも糸川先生にあこがれ、学生時代に先生の著作を何度も読みふけりました。特にわたしが感銘を受け、勇気づけられたのは次のような言葉です。

「いい研究とは、10人中8人が反対する研究である」

 反対する人間が多いほど、いい研究なのだと思いなさい。みんなが賛成する研究ではなく、みんなが反対するような研究をやりなさい。わたしも反対されてきた。なにかやろうとすると、8割の人が反対の声を上げた。でも、つまらない反対の声に屈することなく研究を進めていったから、いまがあるのだと。

「あの糸川先生でもそうだったのか!」
 目からウロコが落ちる思いでした。あのロケット開発の父でさえ、10人中8人から反対されるような状況の中で研究を続けていったのか。出発点はそこだったのか。だったら自分が周囲から理解されないのも当然だし、むしろ歓迎すべきことじゃないか。

 さらに、糸川先生は「独創力」という言葉を大切にされていました。独創というと、とてつもなく画期的なアイデアのように思われるでしょう。しかし先生は、独創についてこんなにシンプルな話をされています。
「独創とは『みんながやらないこと』をやることだ」

 まったくそのとおりですよね。みんなと違うことをやれば、それが独創になる。誰ひとりやっていないことにチャレンジするからこそ、独創が生まれる。むずかしいことは考えず、ただ自分だけの道を歩んでいけば、それはすなわち独創なのです。

 思えば、わたしが野球を頑なに拒否していたのも、つまりは「独創力」の萌芽だったのかもしれません。