世界初をつくり出し続ける生田教授を最初に待ち受けていたのは、ひどい「反対・嘲笑の嵐」。そんなときに先生を救ったのは「イトカワ」こと、糸川英夫先生のとある言葉でした。独創力を身につけるための土台のステップをご紹介する、連載第5回。

「怒られる」はこう使え!

 現在わたしは、東京大学の先端科学技術研究センター、通称「先端研」という施設で研究活動をおこなっています。これは率直に書いておきますが、九州工業大学や名古屋大学に在籍していた当時、わたしの中での東大のイメージといえば、とにかく「権威的で頭の固い大学」でした。

 しかし、この先端研に限ってはまったく違います。毎年秋になると先端研のOB会が開かれるのですが、歴代所長が口々におっしゃるのが「もっと怒られなさい!」という言葉です。「ちゃんと怒られるような研究してるのか?」「最近おとなしくなってないか?」「もっと暴れないと、普通の研究所になったらお終いだぞ」と。

 怒られるとは、どういうことか。
 東大における先端研は、ある種の「実験場」です。研究テーマにせよ、研究アプローチにせよ、あるいは社会に対するアピールにせよ、すべてが実験の場になっています。だから先端研の研究者たちは、「それはやりすぎだ!」と怒られることには慣れっこなんですね。

 やるべきことをやらないで怒られるのは、絶対にダメです。でも、なにか新しいチャレンジに挑んだ結果として怒られるのは、まったく問題ありません。

 なぜなら、「それはやりすぎだ!」の叱責は、「そのやり方、いまの制度じゃ無理だよ。制度を変えなきゃ通らないよ」というサインなんですね。怒られることによって、制度上の限界が見えてくる。いまのシステムをどこが古くなっていて、どこを変革していけばいいのかがわかってくる。

 きっとみなさんの仕事でも、新しい試みに踏み出したとき、上司や社外の方々から怒られることがあるでしょう。でも、怒られることを怖がっていては、いつまでも前例主義の慣習から抜け出せないままになります。

 前例を無視して、どんどん新しいことにチャレンジして、怒られる場面ではしっかりと怒られましょう。そしていまの制度にどんな問題があるのか見極めるのです。部署の改革、社内改革、さらに業界改革とは、こうした制度上の限界が見えた人にこそ、着手できます。