ここなら、どなたを誘っても文句が出ないでしょう。時代の先端を走っている、「特上・手打ち蕎麦屋」をたっぷりとお見せします。

 難解な現代の空気を読みきった亭主たちのストラテジーと店づくり、あなたがまだ体験したことのない蕎麦と蕎麦料理。人を呼ぶ、そのオーラの暖簾をくぐってみませんか。

 人の好奇心は、距離を越える。むしろその距離があればあるほど超えたい、と思うから不思議なものです。

 開店以来4年間、人の好奇心を刺激し続け、光芒とした“オーラ”を放っている手打ち蕎麦屋があります。神田須田町にある、「眠庵」(ねむりあん)です。

(1)店のオーラ:
「迷う楽しみ」を仕掛けた亭主の罠

 この店では、「店に行こうとしたら、3回迷って、やっとたどり着いた・・・」という話をたくさん聞きます。が、そう話す客の顔はなぜかとても楽しそうなのだとか。――こんな噂が伝わるにつれ、眠庵は遠くからも客を集めるようになりました。

 店の場所は、須田町交差点の裏手路地にあります。その路地を歩いていくと、まるでひっそりと人目を避けるように掛けられた、小さな赤い暖簾が見えてきます。

こんなところに店が・・・。狭い渡りから玄関へ

 これも、亭主が仕掛けたひとつの“罠”でしょうか。暖簾をくぐるとさらにその奥には、一人がやっと通れるくらいの狭い渡りがあるのです。この渡りも、「ちょっと入りにくいな・・・」と思わせる心理的な壁を作っているのかもしれません。実際に、「当初、こんな奥まったところに店を構えることに不安を感じた」と、店の亭主が語るほどの奥まった場所です。さらに、店構えは古い民家を改造して建てられています。

古民家を半年かけて改装、落ち着く空間。奥は亭主の柳澤さん、手前は助手のはるちゃん

 僕が手打ち蕎麦屋「夢八」を神田須田町に開店したのは、いまから7年前の平成14年のこと。それから半年ほど遅れて、この眠庵はこの場所に開店しました。

 「ねむりあん・・・が、いいと思う・・・」

 僕の店の厨房に、その声が聞こえてきました。店のカウンターには、のちに眠庵の亭主となる柳澤さんが座っていました。開店準備のため、店の名前や照明のイメージを友人に相談している様子でした。その時僕は、「蕎麦屋にしては奇妙な名前を付けるものだな・・・」と思ったものです。

 彼は5年間も、自分が考える理想の場所を探したといいます。このこだわりには、一種の執念のようなものを感じます。そして5年後、ついに彼は神田の裏路地に“宝の鉱脈”を発見したのです。文字通り、眠っていた理想の場所に庵を構えたことになります。

 建物の土台となる古民家は、まず大工さんに手を入れてもらい、その後は鋸だのトンカチだのを使って、自分自身でコツコツと仕上げたそうです。大工さんと二人三脚で2ヵ月、自分1人の仕上げで4ヵ月。半年もかけてじっくりと完成させたといいます。ようやく手にいれた原石だからこそ大切に磨き、愛でるように世に出したという、店への強い愛情が伝わってきます。