2.中国語と中国文化に精通した日本人幹部を育成する

 次に、中国語とビジネス文化を含む中国文化に精通した日本人幹部の育成を図ることが絶対に必要です。中国人幹部の行動がたとえ中国で必要不可欠であっても、中国に精通しない本社役員が日本の常識に照らして見たときに不合理であると感じた場合、なぜそれが必要不可欠なのかを代弁できるのは、その認識ギャップの背景を完全に理解でき、かつ、それを本社役員が理解しやすく説明できる日本人に限られるからです。

 実際、私にはこのことの重要性が職業的に極めてよく理解できます。私は平素、中国ビジネスの現場で悪戦苦闘していますが、実際に中国の法律法規を調査したり、現場での交渉の中心的役割を果たすのは中国の律師(弁護士)であり、登録会計士(公認会計士)です。しかし、彼らの正しい判断に関して、日本にいる本社役員が日本の常識に照らして理解できないことも多く、そうした場合に私が、両国の制度の相違をわかりやすく説明する文化的通訳ともいうべき役割を果たします。逆に本社役員の考え方を中国企業が理解できるように、わかりやすく中国語で伝えるのも私の役割となります。

 中国ビジネスの現場においては、中国人幹部と両輪を形成する私に相当する役割を果たす日本人が必ず必要なのです。そうでなければ、中国人幹部は本社役員に自分がやろうとしていることが理解されず、あれをやってはだめ、これをやってはだめと阻止ばかりされていると誤解し、優秀な人ほど、嫌になってすぐに辞めてしまうはずです。

 こうした本社役員との潤滑なコミュニケーションサポートのためにも、中国語と中国文化に精通した日本人幹部の育成が必須となるわけです。もちろんここでも自社による育成を待てない場合、ヘッドハンティングに頼ることもひとつの選択肢です。

 ただし、この役割を果たす日本人が現地採用で、中国人幹部から見て本社役員から重視されていないと判断された場合、中国人幹部はその日本人を信用しないことにより、コミュニケーション上の問題が生じ得ます。中国人幹部はその人物の影響力を日本人よりはるかに冷徹に観察することを忘れてはなりません。この日本人幹部は中国だけでなく、日本でもアメリカでも欧州でも活躍できる資質を持った者でなければならないわけです。優秀な日本人幹部は、前述した効果的なチェック・アンド・バランス機能を発揮する一助ともなるでしょう。