2011年夏のことだ。

「最初に彼らから話を聞いた時に、へえ、こんなの作ってるんだ、すごいねえって言ったんですよ」

 日本から遠く離れたラオスで、酒造りをして8年目になるLAODi(ラオディ)社の副社長、井上育三さん(59歳)が振り返る。この時、彼は東京大学近くのスターバックスで、メンバーの代表数人と向き合っていた。

 特製のキットもラベルも美しくデザインされた商品写真を見せられ、井上さんはてっきり、中身もすでに完成しているのだろう、と思い込んでいた。

 が、メンバーは恐縮してこう言った。

「いいえ、中身はこれから作るんです」と。

道端に落ちていた大量のココナッツと
「お酒を作りたい」現地の声が出発点

 今回は特別に、ある「チーム」を取材した。彼らが取り組んでいるプロジェクトはまだ、“仕事”とは呼べない類のものだ。けれど、そこには「働くとは何か」を考える重要なヒントが含まれている、と感じた。

 Wanic(ワニック)――。

 これがチームの名称だ。同時に、これは彼らが作ろうとしているココナッツ酒の名前でもある。チームを構成するメンバーは8人。みな、所属もバラバラで、多くはほかに生業としての仕事を持っている。

「ところで、リーダーはどなたでしょうか?」

 訊ねると、メンバーの1人、山本尚明さん(メーカー勤務、35歳)が言った。

「特に、リーダーは置いていません。一応、僕がとりまとめ役っていうことにはなっていますが……」

 メンバーはほかに久住芳男さん(プロダクトデザイナー)、池村周子さん(グラフィックデザイナー)、安東武利さん(メーカー勤務)、徳久悟さん(大学講師)、森住直俊さん(オンライン英会話スクールスタッフ)、遠藤友理恵さん(大学院の修士課程を終えたばかり)、佐原五大さん(イギリス留学中)である。8人は2010年、See-D(シード)という途上国支援のためのビジネスプランコンテストで出会い、偶然にもチームを組むことになった。