プロダクト100%のフェーズから、多面的に経営を考えるフェーズへ

 プロダクトをユーザが継続的に使ってもらえるようになったら、いよいよ一段会社のステージが変わってきます。今までは、とにかくモノを作って、ユーザに支持してもらうことを考える、100%プロダクトのことだけを考えていればよいフェーズでした。プロダクトにユーザがついてくると、いよいよ多面的に経営を考え始めるフェーズに入ります。

1.チーム

 何をさしおいても、まずはチームを固めることが大事です。恐らく、ここまではプロダクト作りのディレクター、エンジニア、デザイナーを中心とした数人の最小限のチームとなっていることが多いでしょう。しかし、今後必要な機能を考え、プロダクトを規模化させていき、さらにはマネタイズを考えビジネスとして回していくためには、モノづくり以外のメンバーも必要となってきます。また、初期メンバーは、組織が拡大した際にビジョンを伝え、組織文化を形づくる礎になります。よって、最初の10人は絶対に妥協してはいけません。ビジョンへの共感度、スキル双方ともに高いスーパーな人を採用することが必要です。

 そういう意味では、非常に採用は困難になります。本当に良いと思った人は、社長自ら一本釣りで口説く必要があります。良い人ほど現業でも活躍し、重用されています。とにかく、社長自からが何回も会い、ビジョンと熱意で口説くことが必要です。それでも、長いと口説くまでに1年以上かかってしまうでしょうし、そもそも成功確率も低いでしょう。そのためには、キーパーソンの一本釣り採用を社長や取締役のミッションとして規定して、ひとつのポジションに対して数人の候補者を数ヵ月から年単位で追いかけることが重要です。キーパーソン採用パイプラインを定型化されたフォーマットで追いかけ、ルーチン化するとよいでしょう。GREEでは、上場した後でも、各取締役が個別に候補者を口説き一本釣りすることに多くの時間を使い、毎週の経営会議で取締役各人が追っている候補者をリストアップして、状況を確認して管理することを定例化していたようです。

 スタートアップ初期では、“身近な採用できそうな人”を採用してしまう罠に陥り、事業が伸び悩んだり、組織のゴタゴタで空中分解してしまったりするケースを多く見かけます。あくまでビジョンに共感し、ビジョンの達成に不可欠な“理想的には採用したい人”を採用すべきです。“Under 20日本代表”を組成ではいけないのです。世代を横断したベストメンバー“日本フル代表”を組成することが必須です。特に、学生起業家や若いスタートアップだと年上世代とのネットワークが薄いため、身近にいる同世代に声をかけがちになるので、気をつける必要があります。

 さらには、AppStore、Google Play、Facebookなどの流通がグローバル化しているため、いきなりDay1からグローバル展開を狙うスタートアップも増えています。その場合、日本フル代表ですら役不足かもしれません。もはや、世界戦争を勝ち抜くための、“世界選抜”を作る必要があります。実際シリコンバレーでは、中国系、インド系、東欧系、南米系……などなど多種多様な人種が集まり、そこからチームが組成されています。世界を目指すスタートアップはそのようなチームが競合となるのです。

2.成長シナリオ

 プロダクトがリリースされユーザに支持されることが確認できたら、中長期的な時間軸の中で、事業をどう成長させて行くかのシナリオを描く必要があります。プロダクトの開発に集中していた段階では、プロダクトの開発からリリース直後までの数ヵ月単位、せいぜい1年という時間軸で計画を考えていたことでしょう。しかし、成長シナリオを考えるうえで重要なのは、業界によっても異なりますが、2~3年の中長期的な時間軸で、事業を考えることです。

 まずは、意味のある到達点としての中長期的なゴールの設定をします。シェアNo.1、売上100億、プロダクトのユーザ数1000万人など、自社の事業上意味のあるマイルストーン(達成事項)として設定するのが肝です。ここでよくIPOを中長期的なゴールとして設定してしまうケースがあります。たしかに、達成度を確認できるイベントとしては華々しいのですが、IPOの本質的な意味合いとしては資金調達の手段という部分が大きいので、事業目線でのマイルストーンとしてはあまりふさわしくありません。

 また、プロダクトの視点だけからのゴール設定も不十分です。結果的に、ユーザ数1000万人などは、事業上意味のあるマイルストーンとなり得ると思いますが、あくまで「ユーザ数1000万人」が、「それだけユーザを囲い込んでいれば、その後はマネタイズの目途が立つ」であったり、「プラットフォームとして独占的なポジションになる」であったりと、事業上の意味のある目安だからです。プロダクトをリリースして成長シナリオを考える段階では、事業視点でゴール設定をすることが必要なのです。

 ゴール設定したら、次はどのようなステップを経てそこに至るかのストーリーです。クリティカルマス型で、当初はマネタイズよりもひたすらユーザ数を伸ばすことに集中し、ユーザ数がクリティカルマスに達したらマネタイズを考えるのか。それとも、積み上げ型でユーザ数と同時に売上も追いながら、じわじわ伸ばしていくのか。基本的には、自社の事業特性を鑑みて、シナリオを描くのがよいでしょう。

         クリティカルマス型の事業モデル

 


           積み上げ型の事業モデル