認知症の人が侵した犯罪の場合、罰せられるのかどうか自体は法律では明記されていない。刑法39条では、「心神喪失」(自分のしていることが良いことか悪いことかを判断したり、その能力に従って行動する能力のない状態のこと)の場合は処罰されない。「心身耗弱」(自分のしていることの善悪の判断、またはその判断に従って行動する能力が普通の人よりも著しく劣っている状態のこと)の場合は減刑されると規定されているだけである。減刑の程度は具体的にはケースバイケースだが、少なくとも執行猶予はつきやすくなる。

 ここで問われているのは、良いこと悪いことの違いを理解して、自分を律することができる力があるかということである。

「認知症」と言われる人でも、「心神喪失」や「心身耗弱」に当てはまる場合がある。理由もなく徘徊している老人が、スーパーで食べ物を盗って、その場でムシャムシャと食べ始めたような場合ならば、刑法的にも罰せられないだろう。そんな「認知症」の人ならば、そもそも警察も検察も起訴などするはずがない。

 ところが、Aさんのようなケースでは、さきほど述べたように日常生活は問題なく送れているし、自分が悪いことをしているということも分かっている。したがって、「心神喪失」や「心身耗弱」と判断される事はなく、現在の法律のとおり、Aさんの窃盗は犯罪として処罰されざるを得ない。

 もし「年をとってきてから、自分を律することができなくなり、このような犯罪を犯してしまうことを考慮してほしい」と訴えても、「そういう人を直すのが刑務所です」と検察官ににべもなく言われて終わることになるだろう。

最近認識されはじめたピック病
しかし再犯が続けば起訴もありえる

 これは年をとった老人だけの話ではない。若年認知症の場合にも、同じような問題が生じる。

 脳の一部が萎縮することにより、40代、50代でも認知症の症状が生じる。いわゆるピック病といわれるもので、ここ数年認められてきた病気である。この病気が発症すると、同じ行為を繰り返す、性格が変わったように暴力的になるなどの症状のほか、万引きを行うことも認められる。

 実際にピック病に罹患して、万引き事件を起こした地方公務員の方とその家族が手記を出している。その一端をご紹介しよう。