カフェチェーンが変えたコーヒー市場
「ネスカフェ ドルチェ グスト」は、ネスレの本社があるスイスで開発され、まずはヨーロッパで、その後、日本でも発売した。
実のところ、私は、当時「ネスカフェ」というブランドがそれほど好きではなかった。言い換えれば、「ネスカフェ」をもっと“カッコいい”ブランドにしたいと考えていたのである。
ただ、それほど好きではないといっても、売上と利益を見れば、ネスレ日本の屋台骨はやはり「ネスカフェ」であることも間違いない。「キットカット」の受験生応援キャンペーンに取り組みながらも、「自分だったら『ネスカフェ』をどうするか」ということは考え続けていた。そのため、副社長を任せてもらった時点で、私なりの答えをすでに持っていた。
コーヒーの世界は、カフェチェーンの登場によって大きく変わった。これを私たちは、「ブラックカップからホワイトカップに変わった」という表現をしている。それまで、コーヒーを飲む方法といえば、砂糖とミルクを混ぜるだけという飲み方がほとんどだった。これが、カフェチェーンの登場によって、「カフェラテ」「カプチーノ」という新しい世界が生まれたと言っていい。
こうしたカフェチェーンの登場によって、消費者の欲望には大きな変化がもたらされた。それは、「外で飲んでいるコーヒーを家で飲むことはできないのか」という期待である。
しかし、いくらそう考えたところで、どうしても家で飲むすべがない。それならば、私たちがマシンを作ってしまおうというのが「ネスカフェ ドルチェ グスト」だった。
実は、技術的に見れば、エスプレッソをおいしくつくれるマシンはすでに存在していた。「ネスカフェ ドルチェ グスト」がそのマシンと異なるのは、「ミルクカプセル」を使う点だ。たとえば、ラテマキアートをつくる場合、先にミルクカプセルをセットし抽出し、次にコーヒーカプセルをセットして抽出することで、カフェと同じようなラテメニューを楽しむことができる。それも、1杯100円程度と手軽な価格で、である。
この「ネスカフェ ドルチェ グスト」を日本で発売する前に、いろいろな調査を行っている。そのなかの1つとして、「ネスカフェ ドルチェ グスト」の購入後の置き場所について調べたことがあった。
「マシンをどこに置きますか?」と尋ねると、どんな答えが返ってきたと思われるだろうか。当然のように、「キッチンです」という答えが多くを占めた。
しかし、このデータが絶対に正しいかというと、決してそうではない。