社外の人脈づくりを目論んで異業種交流会や外部研修などに参加したものの、「結局、表面的なプロフィルを交換しただけ」「自己紹介が苦手で、ほとんど会話をせずに終わってしまった」などという、苦い経験をお持ちの方は少なくないだろう。今回紹介するシステムがあると、そんなシャイなあなたも、実りあるコミュニケーションができるようになるかもしれない。

 このほど、NECは、空間演出メディア「ACTIVE AVATAR」(アクティブ・アバター)を開発、慶應義塾大学との共同実験によりその有効性を検証したと発表した。

 アクティブ・アバターとは、セミナーやイベントなどの場において、参加者同士が初対面でも話しやすい雰囲気を作り出し、気軽なコミュニケーションのきっかけを提供することを目的として開発されたシステムだ。

ACTIVE AVATAR
「ACTIVE AVATAR」概念図。端末をかざしたり、自分の場所を確認したりする必要なく、システムを利用できる。

 具体的には、セミナー会場などに置かれた共用ディスプレイ上に、参加者がアバター(自分の分身となるキャラクター)で表示され、タッチパネルを操作することにより、プロフィールをメールで交換することができる。この交換履歴を蓄積・管理し、「人脈図」を作成し、表示することも可能だ。

 技術的には次のようになる。ディスプレイ近辺にいる利用者の位置を同社開発の屋内位置管理システム「SmartLocator」及び名札型の測位端末で検出。ディスプレイに設置された赤外線発信機からのID情報を利用者が持つ測位端末で受信し、無線基地局経由でサーバーにID情報を通知。ディスプレイの近くにどの利用者がいるかをシステムが把握し、事前に登録された名前や所属などの情報をアバターとともにディスプレイに表示するという仕組みだ。

 NEC及び慶應大学は、その実効性を証明するために、展示会の休憩コーナーや異業種交流会において、実際にシステムを設置。「コラボレーションマッチングの効果を発揮することを確認した」と発表し、「異分野の知識を持った人々が集い共生することで新たな価値を生み出すための環境づくり」に貢献するものと期待を寄せている。

 IT化が十分に浸透しているとは言えない「リアル空間」に斬りこんだものとして注目すべきものであるとともに、コミュニケーションのあり方そのものにも何らかの変化をもたらす可能性を持っているとも言える。

 「自己紹介」を代替する同システムは、いわばコミュニケーションの「スタートダッシュ」をITで“補助”するといった性格を持っている。人材教育関係者の中には、「そんなことをすると、コミュニケーション能力そのものを鍛えることができなくなってしまうのではないか」との疑問の声もある。だが視点を少し変えると、同システムは、コミュニケーションのスタートラインを、「相手は誰か」を探りあう段階から、「自分は、相手は、何をどう考えているか」という局面に前進させるもの、と捉えることもできる。そう考えると、研修など限られた時間内で「成果」を求められるコミュニケーションにおいては、有効性を発揮するとも考えられる。

 いや、それ以前に、「プロフ」を交換し合う文化に慣れたデジタルネイティブ世代にとっては、技術面はともかく、感覚的には「あって当たり前」のシステムなのかもしれない。

(梅村 千恵)