「強迫観念にとらわれたかのようにメールの返信を急ぐ人」、「せっかく一流企業に入ったのに辞めて、所得を減らしてでも自分らしい職場を探す人」……。一見不可解な現代の若者に特徴的なこれらの行動。こうした行動に駆り立てる原因を探っていくと、彼らの「認められたい」という思いに行きつくことが少なくない。現代において若者を悩ませる最大の問題は、経済的不安ではない。「認められない」という不安なのだ。

一方で、若者でない世代も含めて、日本に蔓延する閉塞感の正体を探る意味でも「承認」、さらに「承認格差」は、大きなキーワードだと考える。この連載では、経済的な格差に苦しむよりも深刻かもしれない、「“認められない”という名の格差」を考えていこうと思う。

 今年6月27日、高知県内のローソンで、アイスクリームなど冷凍系の商品を陳列する冷蔵庫にアルバイト店員が寝そべった状態で入り込んでいる写真がFacebookにアップされ、いわゆる炎上をした。その後、同時多発的にアルバイト店員らの不謹慎な写真がアップされ、同様に炎上を繰り返した。以前から未成年者が飲酒や喫煙行為をツイッターなどでアップし問題となるケースはあったが、今年の夏ほど「バカッター」(「バカ」と「Twitter」を組み合わせた造語。その名の通りTwitterでバカな写真を公開するという意味。また、Twitterによってバカが露呈するという意味も含まれている)と呼ばれる現象が社会問題化したことはなかっただろう。

 今回は、バカッター騒動を総括し、ソーシャルメディア時代の社会のあり方を考えるべく、社会学者の鈴木謙介さんにお話を聞いた。鈴木さんは、今年8月『ウェブ社会のゆくえ―<多孔化>した現実のなかで』という著書を出されている。これ以外にも著書は多く、2002年からインターネットに関する書籍を出しておられるので、少なくともここ10年のインターネット上のあらゆる事象を社会学的に捉える活動を続けていることになる。自身もTwitterやFacebookを使いこなす鈴木さんに、今起こっていることを語っていただいた。

ソーシャルメディアのタイムラインは
孤立不安をあおる設計になっている

――今回は、昨今話題になっている「バカッター」への対処法からはじめて、その後にソーシャルメディアとの関わり方を考えていきたいと思っています。鈴木さんは、Twitter上で、アルバイト中の「倫理に反したバカな写真」をアップしてしまう人々について、どのように対処すれば良いと思いますか?

「バカッター」「LINE既読」問題はなぜ起こる?<br />ソーシャルメディア時代の同調圧力鈴木謙介
社会学者。1976年生まれ、福岡県出身。関西学院大学社会学部准教授。「ウェブ社会のゆくえ」(NHKブックス)、「SQ“かかわり”の知能指数」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「サブカル・ニッポンの新自由主義」(ちくま新書)など。TBSラジオ「文化系トークラジオ Life」、NHK「青春リアル」などのパーソナリティも務める。

 バカッターについて、「対処方法」と「なぜ彼らがそのような行動をするのかを理解すること」は別々に考えるべきだと思うんですよね。対処の仕方は、方向として3つしかないと思います。

 1つ目は、一定割合でこういうことをやらかすスタッフは出てくるので、リスクと割り切ってすぐ入れ替えられるように就業規則を作って、こうした投稿を行ったら即クビにしましょうというもの。

 2つ目はもう少し柔らかめに、バイト中は携帯電話を預かるなどして、物理的に撮影・投稿させないという対処方法。

 3つ目は従業員教育の徹底です。なぜそういうことはしてはいけないかをきちんとコストをかけてやることを指します。最近では「バイトテロ」なんて言葉もありますが、バイト先の環境が悪いからスタッフのモラルが低いのだという話が出てきて、労働環境をちゃんと整えることが最善の対処法であるという意見も見られるようになりました。硬軟おりまぜてこの三方向の間でバランスを取るしか、対処法はないと思います。