ニュースをつくるために広告からPRへシフトする

 日本における最大の問題は、マーケティングがないことだ。

 従来のマーケティングができないということも、たしかにある。新興国のマーケティングは、経済も右肩上がりで成長し、人口も増加の一途をたどる。そのため、テレビ広告が最適なチャネルになる。

 しかし、現在の日本では、テレビCMを見て商品を買う時代ではない。ネスレの中でも、CMなどのマーケティング予算を減らすと、ブランドに対する投資が減ると言われることもあるが、私は必ずしもそうではないと考えている。

 そのため、ネスレ日本は、広告からPRへとシフトしている。詳細は『ゲームのルールを変えろ』(ダイヤモンド社)でも触れているが、ブランドにニュースをつくることのほうが大事になった時代なのだ。

「レギュラーソリュブルコーヒー」の記者会見で、インスタントコーヒーをつくったネスレが、「さよなら、インスタント」という発表を行った。すると、驚くほどの勢いでニュースになったため、あれほど覚えにくい、発音しにくいと言われていたレギュラーソリュブルコーヒーも急速に浸透している。

 それは、ニュースになったからだ。たとえば、1万GRP(延べ視聴率)のテレビCMを行ったところで、それだけでは覚えてもらうことはできない。それほどまでに、成熟した国においては、いわゆる広告・宣伝のパワーが落ちているのだ。

 ここ10年、20年の間に、日本でも世界的に成長した新ブランドはあるが、その証拠として、テレビCMや雑誌広告によってつくられたブランドはほとんどない。ユニクロやニトリはその代表例だ。もう少し前の例を挙げてもそれは顕著である。マイクロソフトしかり、DELLしかり。テレビCMで知ったわけではない。すべてニュースである。こうした変化を読み込めるか読み込めないかにかかってくる。

 事実、私が社長に就任してから、広告予算を大幅に削減した。しかし、「ネスカフェ」や「キットカット」の売上は伸びている。受験生応援キャンペーンは最たるものだ。宣伝は行っていなくても、ほぼすべての学生がこのキャンペーンを知っている。

 それは、ニュースになった情報をどこかで耳にしているからだ。これが21世紀の成熟した国家でのマーケティングだと私は思う。