ポイント4
自分を取材する「ねぎま式メモ」
ノートに書くことには、ほとんどの場合、決まった形式はありません。ただ思い浮かぶままに文章を綴っていくこともあれば、その日の自分の行動などを箇条書きにすることもあります。
ただし、会議に参加したり、講義や講演を聴いたり、研修を受けたり、施設を見学したりと、何かを「取材」したときは、いつも決まった型を使って記録しておくことにしています。
その方式を、僕は「ねぎま式メモ」と名付けました。やり方は次の通りです。
(1)自分以外の人の発言、観察して気づいたことなど「外から入ってきた情報」を「○」を付けて箇条書きで書く
(2)それに対する感想、自分の声などを「☆」を付けて書く
(3)(1)(2)を繰り返す
焼き鳥に「ねぎま焼き」というのがあります。鶏肉と長ネギが交互に刺さった串のことです。「○」「☆」が交互に出てくるところが似ているとことから「ねぎま式メモ」と呼んでいます。箇条書きの一つひとつは、シンプルに単文で書きます。たとえばこんな具合です。
○参加者は50人くらい? ビジネスマン多い
☆「いい商品なのに売れない」という悩みはどの業界にもあるなあ
○テーマは「消費者インサイトをつかむには?」
☆インサイトって何? 英語辞書で引いてみよう
○ある売店でミルクシェイクが売れた理由は「運転中に口寂しかった」からだと発覚
☆これは意外だ! 世間には考えもつかないニーズがあるのだ
○日本語は意思疎通が簡単なので(空気を読む)、インサイトがわかりにくい
☆日本でうまくいった事例はあるのか?
○消費者調査では潜在的テーマがわからない。インサイトは観察して考えるしかない
☆なんでも仮説を立てて考える癖を持ちたい
これは実際に僕がマーケティングの専門家の講義を聞きにいったときに書いた「ねぎま式メモ」です。「○」は、周囲を見てわかった事実や講師の発言。つまりは「客観」です。対する「☆」は、僕の頭に浮かんだ声。つまり「主観」です。
出席レポートなどにまとめる場合は「○」を中心に、感想や質問を書いたり、自分の意見を提出する場合は「☆」を中心にまとめればいいことになります。新聞記者をしていたころは、シンポジウムなどをこの「ねぎま式メモ」で取材し、「○」は記事に、「☆」は出席者への質問やコラムのネタ、取材テーマに、という使い方をよくしました。
セミナーなどに参加した場合、この例でいう客観、つまり「○」の部分は誰でも少しはメモを書くでしょう。ところが、多くの人は「☆」に当たる「主観」を記録しません。これは非常にもったいないと思います。
「主観」と「客観」をセットにしておくことで、互いに「背景」の役割を果たし一つひとつの情報がより立体的になるからです。さまざまなメリットがあるこの「ねぎま式メモ」ですが、一番重要なことは、「自分の声」を記録するということにあります。
何かを取材するとき、大切なのは自分が感じたことや考えたことといった「主観」です。人の発言や会場の様子は、あとで他の人から聞くことができますが、「自分の声」だけは、誰にも教えてもらうことができません。
知的生産の核になるのは、自分が感銘を受けたこと、問題意識を持ったことといった「主観」だけです。他人から一方的に聞かされたことは、ただの知識にしかなりません。
「自分の声」を書き残しておくことは、自分を取材することでもあります。いわば「自分の考えはおもしろい」「自分の発想は価値がある」と認めること。これこそが知的生産に必要な態度なのです。