ゴルフの祭典マスターズ・トーナメントは、毎年4月の第2週、米ジョージア州オーガスタで開催される。球聖ボビー・ジョーンズが理想の地を求めて造った、世界一美しいと言われるゴルフコースだ。実際、その美しさは目を見張る。

 グリーンはまるで凪の日の水面のようにきれいに均されている。フェアウェイは緑の絨毯のようで、池は空のように青く、バンカーはまぶしいほど白い。キャディーの服装は、白のつなぎで統一され、清掃員は青、メンバーはグリーン・ジャケットの着用を義務付けられている。

 コースにはツツジの花が咲き乱れ、記者やカメラマンなどのメディアですら携帯電話の持ち込みが禁止されているため、どの地点にいても風の音が聞こえるような自然な静寂が支配している。

 筆者は、そのマスターズをゴルフダイジェストの特派記者として取材している。
http://www.golfdigest.co.jp/digest/magazine/gd/

 3人の日本人選手、片山晋呉、今田竜二、石川遼には、つねに30人を超える日本人記者が帯同している。取材パスの発行が厳しいマスターズでは、パトロン(ギャラリー)として混ざっている者も含まれる。初出場は今田と石川。とくに17歳の石川は、日本人として唯一、記者会見を行ない、米国での注目も高い。

 期間中、世界中から十数万というパトロン(観客)が集まるため、周囲の道路はつねに大渋滞だ。

 そのマスターズ・トーナメントは、ボランティアスタッフによって成立しているといっても過言ではない。コース内の売店、駐車場誘導、清掃、などなど、住民たちの善意がこの大会を支えている。創始者のボビー・ジョーンズが生涯アマチュアを貫き、そのボランタリー精神が大会の運営方針に反映しているということのようだ。だからこそ、この大会に対しては、あらゆる選手が尊敬の念を込めて、緊張感を持って語られることが多いのだ。

〈ゴルフは米国に渡って悪くなり、日本に行って最悪になった〉

 これは、ゴルフ発祥の地・英国のゴルファーたちが秘かに囁いている言葉である。ゴルフという競技に対する米国人の振る舞い、さらには日本人の無理解がこうした評判を作りだしたのだろう。

 だが、米国についてはこのマスターズ・トーナメントのおかげでずいぶんと印象が変わったという。ゴルフを競技としてだけではなく、人格形成の場として捉え、とくにジュニアゴルファーの育成、社会貢献に力を注いできた結果かもしれない。いたるところに障害者専用のエリアがあり、そうした人々を優遇しているマスターズトーナメントはその象徴だ。